控え目



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PS5、PS4、スイッチのアクションRPG。開発はナツメアタリ。

シナリオは野島氏、音楽は下村氏、キービジュアルは直良氏、ディレクターは野村哲也の大ファンである磯部氏。
という極めてスクエニ色の強いスタッフが集結して制作されたRPG。
ゲームの中身も、現実の渋谷を舞台に若者が活躍するという「すばらしきこのせかい」を彷彿とさせるローファンタジーとなっていて、更には同作とコラボレーションしたクエストまで含まれて、スクエニの中でも特に野村氏の影響を強く感じる内容だった。

でも、このゲームを作っているのはスクエニではなくフリューであり、予算の限界を感じずにはいられなかった。
まぁとにかく映像がショボい。PS2の時代を思い出すレベルのハリボテ具合。
それでも渋谷のフィールドは結構入り組んでいてそれなりに雰囲気もあるが、ストーリーを重視したキャラクター視点のゲームなのにムービー中の動きが貧弱すぎるのがキツい。数パターンのモーションと表情を組み合わせてどうにか体裁を取り繕っている感じで、劇としての見応えは皆無。

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ストーリー自体は悪くなかった。発売前のインタビューで、目立った振る舞いは押さえ込もうとする日本の社会に対するアンチテーゼを込めた物語と答えていたので、こりゃかなり主張が前に出てそうだなと思ったが、意外と冷静にストーリーはまとめられていた。
同じくフリュー制作の「モナーク」も「エゴ」をテーマとした物語でかなり個人的な想いが込められたストーリーだったが、あれは良くも悪くも製作者が言いたい事をフィルターを通さずそのままゴリ押してくる野暮ったさがあり、物語として溶け込んでなかった。端的に言えば、説教臭かった。
一方で「レナティス」は、現実社会から迫害された魔法使いという設定を駆使しながら、ストーリーとキャラクターを通して主張が語られており、主人公の歩みを通してテーマが感じ取れるようになっている。流石は野島氏と言ったところ。
ただし、ストーリーが垢抜けている故に主張が内面に隠されているのだが、演出が壊滅的なのでイマイチ意図するところが伝わって来ないというもどかしさがある。明らかにストーリーがカットされたような不自然な繋ぎの場面も多く、掘り下げも全く足りてない。
低予算の影響がモロにストーリーに直撃しているので、そういう意味では、主張を遠回りさせずそのままの純度で伝えようとするモナークのやり方は間違ってなかったのかも知れない。

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と言うわけで、キャラクター主観のゲームなのにカットシーンの動きが貧相で劇としてのレベルが低いという致命的な問題があるが、アクションになると一気に様子が変わる。
縦横無尽に激しく動き回り、大量の弾幕を華麗にかわし、これでもかとド派手な大技を叩き込む主人公達。あれほど硬かったキャラクター達が、バトルではめちゃくちゃ華麗に動きまくる。
日本のRPGに対するツッコミとして「ムービーで出来る事がゲーム中では出来ない」と良く言われるが、このゲームは真逆。ムービーよりも遥かに凄いことがプレイヤーの手で起こせる。動きも滑らかだし、処理落ちも全くない。これぞ日本のRPGというカッコ良さを詰め込んだ決まりに決まったバトルを繰り広げてくれる。アクションに関しては一見の価値があった。

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システムとしては、守りの抑圧モードと攻めの解放モードを切り替えながら戦うのが基本線。
抑圧モードがかなり特殊で、この状態では相手の攻撃が当たる直前、もしくは当たった直後にスローモーションになるので、そのタイミングで回避ボタンを押すだけで攻撃が避けられるというかなりハードルの低いアクションとなっている。
回避のエフェクトも派手でカッコよく、特に空中だと華麗に立ち回ってくれて分かりやすく俺ツエー感を演出してくれた。

しかし、途中からこのシステムを持ってしても追いつかないほど敵の攻撃が激しくなる。弾幕シューティングかと思うほどの攻撃が飛んできてなんかもう凄い。特に終盤のボスのヤケクソっぷりはヤバい。とんでもない密度の攻撃が降りかかってきて、完全に殺しに来ていた。
バトルは、駆け引き的な要素は少なくカッコいいシーンを作り上げるという演出的な側面が強い。敵の攻撃をしっかり見ていたらとても追いつかないので、回避ボタンを適当に連打するのが最適解。終盤はアイテム使用ボタンすら連打していた。回復アイテムも大量に持ち込める。
なので、回避と回復ボタンを連打していれば基本的にゴリ押しできる。戦術面でも、抑圧モードで魔力を貯め切ってバーストモード発動という流れが一番効率が良いので一辺倒な流れになりがち。
アクションとしてもRPGとしても単調だが、激しい敵の攻撃を華麗にいなしながら派手な大技を叩き込んでいくというアニメ的なバトルシーンを体験できるのは楽しかったし、このゲームのコンセプトを強調していたのは間違いない。
ただ、近接攻撃に関しては当たった直後に回避ボタンを長押しする必要があり、これがアクションとして違和感があるうえに、棒立ちで敵の攻撃を待っている様が見た目悪くて、あまり気持ち良くない。必須の戦術ではないが、たまにこれを使わないとバリアーを剥がせない敵がいて凄くストレスだった。

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ちなみにこのゲーム、チャプターの数がなんと33もある。開始5時間で10章を超えたのでどこまで行くのかと思ったら最終的に33章まで行ってビックリした。どんな超大作なんだよと思うが、ストーリーだけならボリュームは15時間くらい。なので30分ほどで区切りが訪れる。
要するにテンポが良い。重厚なRPGを作るのは無理だと割り切っている感があるが、これで正解。どんどん進んでいる感覚があって、この高速回転は推進力があった。ハリボテ具合を勢いで誤魔化せている。良い意味で、あっという間に終わった。

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ストーリーはもっとあざとくメッセージ性を押し出しても良かったかもね。
良いセリフも多いし、テーマも共感しやすい。世の中を変えるために飛び抜けた最強になりたい。でも独りよがりではなく、愛のある最強を目指す。という凄くピュアで理想に溢れた青臭い物語のプロットは、個人的には好み。
でも、あんまりストーリーが伝わって来ない。熟練のライターである野島氏がシナリオを書いてるだけあって主張が前に出過ぎないよう洗練されていたのが裏目に出た感がある。FFレベルの映像の作り込みなら情感たっぷりに伝わってくるんだろうけど、流石にこのゲームは情報量が少なすぎた。
想像力で補うのも限界がある。この物語の源泉にあるのは、何かを訴えようとする熱量だから。それはゲーム側から発信してくれないと感じ取ることができない。日本のRPGらしいすごく熱い想いが秘められたストーリーなのは分かるが、それが熱として伝わって来なかった。
ストーリーの完成度を下げても良いから、もっと単純にドラマチックに魅せて欲しかったなと言うのが正直な感想。