ユーザービリティよりも、体験



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PS5、PS4、XboxX.S、XboxOneのアクションゲーム。開発はStriking Distance Studios。

「デッドスペース」のスタッフが集結して制作され、そしてデッドスペースと同じく日本で発売できなかったホラーゲーム。どうやら表現がグロすぎてレーティングを通せなかったようです。
発売中止のニュースを見た時は驚いたよね。カリストプロトコルに関しては、国内での発売に向けて日本語吹き替えも含めたかなり本格的なローカライズがされていたし、中止の発表がされたのも発売直前だった。何より「レーティングが通せないから発売中止です」なんて今まで聞いた事がない理由だった。

でも、そんな事で諦める俺ではない。「日本で購入できないなら、海外から取り寄せれば良いじゃない」と誰かが言っていた。
結局はデッドスペースと同じ。あのゲームも1、2、3と海外版をわざわざ購入して遊んでいたのだから、輸入版を買う事に抵抗はない。そうして発売中止の報道を見てから10分後にはAmazonで北米リージョンのパッケージを予約しているのであった。
それから色々あって、Amazonで勝手に予約をキャンセルされたり、予約し直そうにもどこも品切れで注文出来なかったり、仕方なく海外のサイトで英語が分からないながら何とか予約に漕ぎ着けるも発送が遅すぎて本当に届くのか心配になったり、と紆余曲折あったが、最終的にAmazonで出品されているのを見つけて注文したら発送は年末予定だったのに1週間後には届けてくれてようやく俺はこのゲームにたどり着いたのであった。
日本で買うより値段は高いし購入まで本当に面倒くさかったけど、カリストプロトコルはそこまでしてでもやりたいゲームだった。そして、そこまでしてやる価値のあるゲームだった。

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基本は、デッドスペースと同じ。「バイオハザード4」に代表されるカメラがキャラの背中を密着して捉えた三人称視点のアクションゲーム。
体力ゲージや弾薬数、インベントリなど、情報やユーザーインターフェースをガジェットに溶け込ませて殆どゲーム的な記号が映像に表示されないリアルな世界を表現したり、怪物が神出鬼没でダクトやら配管の隙間やら瓦礫の影やら山積みの死体の中やらとあらゆる死角に潜みプレイヤーをビックリさせることに命をかけていたり、スライド式ドアの開閉時間を利用してロード時間を無くしていたり、アイテムのやり繰りが必須で敵との戦いに気が抜けなかったり。
とにかくリアル。とにかく油断ができない。つまり臨場感がある。ホラーを見るのではなく、体験ができる。だから怖い。そうしたデッドスペースの基本コンセプトは継承しており、常に緊張感が張りつめている。

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でもそれは既に過去作で通った道であり、特筆するべき事でもない。今作の独自性は何かと言うと、「近接戦」が注目されていること。
デッドスペースは、銃やテレキネシスがアクションのメインで、如何にしてクリーチャーに近付かれないようにして戦うか、という立ち回りだった。
打って変わって今作は、クリーチャーに積極的に立ち向かっていく戦闘スタイルが押し出されている。最初の1時間なんてずっと殴るしか戦闘手段がなく、このゲームの方向性が高らかに宣言されていた。
もちろんその仕様に合わせて近接向けのスキルやテクニックが用意されていたり、敵に接近しても立ち回れるように「回避」のシステムも存在する。
デッドスペース3でもでんぐり返しをする回避があったけど、そんなアバウトなものではなく、敵の攻撃に合わせてスティックを右か左に傾けると回避アクションが勝手に働いて攻撃を避けてくれるので、かなり強力。
今作はこの回避が攻略の鍵を握るのだが、操作の癖が強くて、中盤まで中々回避の成功率が上がらずかなり苦戦した。ちゃんとスティック傾けてるやん!と自分では確信しているのだけど、それが上手く決まってくれない。
敵を正面から捉えている必要があるとか、攻撃が終わるまでしっかりスティックを入力する必要があるとか、はっきりとした条件は分からないが少なからず正確性が必要で、後半になると反応できた攻撃に関しては殆ど完璧に回避できたので結局精度の問題だったんだなと納得したけど、独特な間合いを掴む必要があるので慣れるまで結構イライラする。

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更にイライラするのが、武器の持ち替え。殴るだけでなくちゃんと銃も存在するけど、武器の切り替えがトロすぎる。
と言うのも別の銃を取り出すのではなく、わざわざ銃身をカスタマイズすることで別の種類の銃に切り替えるという仕組みになっているのでその分時間がかかるのだ(一部の武器は持ち替え可能)
このゲーム、サバイバルホラーの定石通り、手に入る弾が少ない。特定の武器だけでゴリ押すことはできず、弾薬と相談しながら色んな武器を使い分ける必要があるのだが、切り替えようとするたびに5秒くらいロスが発生する。
しかも、普通のシューティングゲームなら左右上下それぞれの十字キーに武器をセッティングして対応したボタンを押したら持ち替えてくれたり、もしくはホイールを回して任意の武器に合わせる事で持ち替えたりと、楽に切り替えできるようになっているものだが、このゲームは十字キー右を押す→縦一列に並んだ全ての銃から任意のものにカーソルを合わせる→×ボタンを押す、という工程を経てようやく武器の持ち替えモーションに入ってくれる。
押すボタンの数は多いし、縦一列に並んでいる武器からカーソルを合わせるのも面倒だし、その流れのあと更に長いモーションが入ってようやく持ち替え完了という有り様。どんだけ手間かけさせるんだよと言いたくなる。

この持ち替えの仕様は、割と攻略の難易度に直結している。カリストプロトコルは、デッドスペースと比べても敵の殺意が強い。回避があるんだから、敵が積極的に向かって来ても別に良いよね?と言わんばかり。武器の切り替えによるロスが本当にキツい。そんな事をしている余裕なんてない。
じゃあ、どうするか?立ち向かうしかない。恐怖の対象に積極的に向かっていくしかない。
弾が切れた時の絶望感。武器を切り替えようとする時の焦り。仕方なく棒を振りかざしながらヤケクソにクリーチャーに立ち向かうガムシャラさ。
このゲームは、ホラー映画でありがちなワンシーンを自然とプレイヤーに演じさせている。それがカリストプロトコルの凄いところである。つまり完全に計算されている。俺はずっとこのゲームの手のひらの上で踊らされていた。
確かにゲームとしてみたら快適性に欠けるしアクションの妨げにしかなっていないが、プレイヤーが主人公になってサバイバルホラーを体験するという側面から見たら、それは素晴らしい臨場感を作り出していると言わざるを得ない。文句ばかり言いながらも完全に俺はゲームの中に入り込んでいた。
クリーチャーは更に攻撃的で恐ろしくなり、一方で銃は不便で使い辛くなったが、近接向けのアクションを強化した事でバランスが取れている。
恐怖に対して立ち向かう、というのがサバイバルホラーの醍醐味だが、このゲームの戦闘スタイルはその方向性を見事に引き立てていた。

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そして相変わらず、困難を打ち破った時のカタルシスが凄い。
クリーチャーを倒した時の爽快感がヤバいんですわ。いや本当に。撃ったり殴ったりした時の手応えがありまくり。
弾ける頭、吹き飛ぶ腕、ちぎれる脚、噴き出る血飛沫。そして倒れた敵をめちゃくちゃに踏み付けまくる。グロい。確かに過激だ。CEROが真っ青になるのもよくわかる。
特に死体をぐちゃぐちゃに踏み付ける事ができるシステムがとてもお下品で、個人的に切断やグロ描写よりもこの部分がレーティングに引っかかっているのではないかと勝手に思ってる。
でも、やらなきゃやられるんだからしょうがない。だってまだ生きてるかも知れないでしょ?そんな言い訳を自分にしながら倒れた敵を必要以上に踏み付けるのが本当に気持ち良い。
生きるか死ぬかという極限状態が、俺を残酷にさせる。言い換えると、それほどまでにこのゲームはリアルで、自分がゲームの中に入っているという感覚がある。脳からアドレナリン出まくり。何回クリーチャーと対峙しても焦るし、緊張感がある。それだけに困難に打ち勝った時の達成感は本当に格別だった。
だからこそスッキリしない終わり方はちょっと残念。バイオハザードみたいにロケットランチャーで全てを吹っ飛ばして綺麗に終わり、みたいな潔さが欲しかったね。

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難しかった、今作は。結構な数死んだ。その死んだ理由も回避のよく分からない間合いだとか武器の切り替えがトロいだとかが大部分を占めていて、実際このゲームはかなり不便な仕様が多いので、プレイ中は不満ばかり愚痴ってたけど、文句を言いながらゲームをするのが凄く楽しかった。
自分の思い通りにいかないからこそ、予定調和では納まらないことがあるからこそ、ゲームは思い出に残る。
システムとしてのゲームではなく、体験としてのゲームを優先した作りに拍手を送りたい。デッドスペースの流れをそのまま引き継いでいるが、あのシリーズでやり切れなかった拘りが詰め込まれている。志を感じる良いゲームでした。