続編だから面白い。続編だから飽きる




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PS5とPS4のアクションゲーム。開発はサンタモニカスタジオ。

前作で一旦仕切り直しとなったゴッドオブウォーシリーズ。
その一番の特徴は、主人公であるクレイトスが落ち着きを取り戻したこと。いやもう本当に人はここまで変わるのかと言うくらいクレイトスさんの様子が様変わりしていて驚いたね。

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何しろPS2の初代ゴッドオブウォーから始まって、2、3、アセンション、PSPの外伝に至るまで、クレイトスはひたすら怒り続けていた。
主神に裏切られて家族を失ったスパルタの戦士クレイトスは、怒りの炎を胸に復讐を誓う。そのやり方がそりゃあもう残酷極まりないもので、頭をペシャンコにしたり、首を引っこ抜いたり、腕を引きちぎったり、目ん玉潰したり、脚をもいだり、内臓を抉り出したりと、凄まじい神殺しの光景を見せ付けていた。
相対する神に対してだけそうなるという分別があるわけでもなく、罪のない民間人も平気で殺すし、無抵抗なか弱い神の娘を歯車に絡めてストッパーとして利用した場面とか今でも印象に残っているくらいで、目的の為なら手段を選ばない冷酷無比な怪物だった。

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そんな怒りの化身となったクレイトスさんが激情にかられるまま突っ走り続けるのがゴッドオブウォーというゲームであり、アクションゲームとして見たら3Dなのにカメラが自由に動かせなかったり、バトルが単調だったり、探索や寄り道要素もほぼなく、決してゲームとして面白いと言えるものでは無かったが、クレイトスさんの怒りのパワーを発散させるというその勢いの一点に特化したスペクタクルな展開は圧巻だった。特に「ゴッドオブウォー3」のポセイドン戦は本当に凄すぎて感動した。
言ってみれば、かつてのゴッドオブウォーは「ゲームは中身よりもグラフィックと演出の方が大事なんだよ!」というゲームだった。
プレイヤー側が自由にカメラを動かせないと言ったけど、それはゲーム側が拘り抜いたカメラワークによるカッコ良いシーンをそのまま体験して欲しいということであり、ボス戦も殆ど決まった流れを繰り返すだけの演出でしかないけどとにかくスペクタクルで迫力があった。
何より常識外れのグラフィックと神話を舞台にしたスケールとロード時間が一切存在しない完全シームレスなゲーム展開が、そんな劇場型のゲーム構造を力強く支えていた。
ゲームは中身よりも映像の方が大事という暴論をプレイヤーに納得させてしまうだけの圧倒的な技術力とパワーに満ち溢れていたのが、ゴッドオブウォーというゲームだった。

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ようやく話は戻るけど、PS4で仕切り直しとなってクレイトスさんの様子が大きく変わる。
新しい家族を持ったことで平穏を手に入れたクレイトスは、妻と息子を愛する冷静沈着な頑固親父となったのだ。
クレイトスから怒りや憎しみが消えたことで、ゲームデザインも大幅に変更。感情のままに突っ走る演出重視の一本道構造ではなく、世界を大冒険できる探索や装備・育成などのRPG的な要素を存分に取り入れたゆとりのあるアクションアドベンチャーに変貌した。ついでにカメラも自由に動かせるようになった。
アクションは格段に駆け引きが増して面白くなったし、探索できるし、サブクエストもいっぱいだし、装備を集める育成の楽しさもある。もちろんグラフィックは上の上で、ここぞというところではシリーズ仕込みのスペクタクルな演出を見せてくれる。
ゲームは中身よりも映像の方が大事だろ!という今までの主張から、ゲームは中身も映像も大事だよね、というバランスの取れた方向性に転換。
それはただ単にゲームデザインを今の時代に合わせたという事ではなく、クレイトスさんの変化に沿った自然な成り行きであり、ゲームとキャラクターとストーリーが噛み合った見事なアップデートだった。

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で、続編となる今作もその方向性を引き継いでいるのだが、前作以上にボリュームが凄い。
寄り道など一切抜きにして考えても一般的な同ジャンルと比較して2〜3倍くらいの内容量を誇る。具体的に言うとストーリーだけでも25時間はかかった。寄り道要素含めたら50時間は遊べる。
個人的にゲームを構成する要素としてボリュームはそこまで重要ではないと思うし、むしろ同じ事の繰り返しになったり取って付けたようなお使いを足して無駄に引き延ばすくらいならコンパクトにまとめてくれた方が嬉しいけど、ここまで蛇足なしに内容を詰め込んでくれるなら話は別。
特にこのボリュームはストーリー面において良い影響を与えている。父親としての大きな愛情、かつての自分との決別、息子の成長、未来は自分の手で切り開くという前向きな姿勢、旧友との和解、仲間の掘り下げに至るまで、色んな要素がストーリーに詰め込まれているがそれを余す所なくしっかり描けている。
中でもやはり主人公クレイトスと息子のアトレウスによる親子関係は前作から続く骨太なところであり、今作も見どころ満載だった。思春期を迎えたアトレウスは父親への反抗が絶えず、「クソ親父」発言も飛び出す始末。
シリーズ通して命題にあるのは「家族」であり、普遍的な王道ストーリーだからこそ、作り込みがものを言う。描写を積み重ね、王道を王道としてやり切っていた。
主人公だけでなく色んな家族の親子関係を見る事ができるのもこのシリーズの特徴で、それがクレイトスとアトレウスの関係性の対比にもなっていた。
前作は過保護ママによる行き過ぎた親の愛情が描かれていたが、今作は夢ばかり追いかけて家族を放置している自己中親父が登場。それは予言ばかり拘って自分本位な行動を繰り返していたアトレウスに対する内省でもある。
一つ前の作品では憎しみに囚われた昔のクレイトスと重なる男が宿敵として登場し、主人公がかつての自分と決別する、という意味合いも含んだメッセージ性の濃いバトルを展開していたが、今回はアトレウスに着目し、戦いを通じて彼は大人の階段を登っていく。

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一方で、何でもかんでも全部◯◯が悪い、としているストーリーラインはちょっと気になった。
分かりやすく勧善懲悪にしていると言えばそうなんだろうけど、正義や戦いの意味を説いて、立場と目的によって正しさは変化し、それぞれの人にやるべき事がある、というところまで踏み込んで語っているのに、◯◯に関しては完全な悪扱いしているのは違和感がある。
悪者扱いにする根拠も「だって今までそうだったから」程度でしかなく、主人公側に都合が悪くなりそうなことも全部あいつが悪いからと押し付けているのは流石に可哀想。
ここまで正義と悪を固定するならもっと分かりやすく悪人ムーブして欲しいのにそうでもないし、あんまり倒すべき敵として気合が入る相手では無かった。
前作のラスボスも可哀想な奴だったけど、ちゃんと彼は可哀想なキャラクターとして描かれていて、その悲哀さがこちらに牙を向く殺意として伝わり、本気のぶつかり合いに響くものがあったけど、今作はあまりにも単純化された敵な上に盛り上げ方がイマイチ。ちょっとカタルシスが弱かったね。

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「ラストオブアスパート2」でも思ったけど、ソニーのゲームはボリュームが凄い。普通、アクションメインのシングルゲームでここまで作り込む事なんて出来ない。
単純に長い方が良いとは思わないが、惰性や引き延ばしではなく、ストーリーを描き切る為にちゃんと内容を詰め込んだ上でのボリュームなのだから満足感が凄い。

ただ、やってることが殆ど前作と同じなので正直早いうちに飽きが来た。アクションもシステムも舞台も殆ど変わらない。アプローチが違うとは言えストーリーのテーマも大枠は同じ。
グラフィックや作り込みは凄いがアクションアドベンチャーとしてはそこまで特筆するところもなく、そつなく人気の要素を取り入れましたよという内容なので、個人的にこういう完成度重視のゲームは一作やったらもう良いかなという気持ちになってしまい、前作の段階で割とお腹いっぱいだった。そこに殆ど変化のない新作が来たのでいまいちテンションが上がらなかったのは事実。
キャラクターの成長を感じる続編だからこそ描けるストーリーとなっていてそこはやはり面白いし、続編であることに意義のあるゲームだけど、一方で続編だからやってる事は基本的に変わらずちょっと飽きた。
次作も全く同じストーリーテーマやゲームデザインだと正直完全に飽きてしまいそうなので、今作でひと段落ついた事だし、次はちょっと違うものを見せて欲しいなと思う。