ストーリー(見せたい)ゲーム



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スイッチのRPG。開発はモノリスソフト。

超ストーリーゲームだった。ムービーが長いとか、物語のメッセージ性が強いとか、キャラがグイグイ意見を言ってくるとか、プレイヤーの受け取り方次第としている自由度の高いシナリオと違い、制作者の主張が強いお馴染みの日本のRPG的な物語となっているのはいつもの事だが、それだけではなく、とにかくこのゲームからは、最後まで遊んでプレイヤーにちゃんとストーリーを見終えて欲しいという強い意志を感じる。

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端的に言うと、今作は凄く簡単だった。いつもなら10時間くらいレベル上げに奔走する羽目になるが、今作は一直線に進んでも全く行き詰まる事がなかった。
正直、俺は殆ど今回雑魚と戦ってない。ロケーション発見時やボスを倒した時の経験値が相当貰えるので、それだけで最低限のラインまではレベルを上げる事が出来てしまう。ボスも弱いのでそのレベルでも何とかなる。別に面倒くさい雑魚戦なんかしなくても良いですよと言わんばかり。

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まぁ戦闘があまり面白くなかったので、簡単なのはむしろ良かったけどね。
まず、戦闘参加人数が7人(操作できるのは6人)とやたらと多いが、これが面白さに繋がっているように見えない。
操作キャラを切り替えようとする度に何回もボタンを押す必要がある操作性が引っかかるし、スイッチの性能のせいでグラフィックが潰れているので大人数でわちゃわちゃされても何をやっているのか全く把握できず、ちゃんとパーティーの動きを管理してバトルしようという気持ちが萎えてしまった。
映像はしょうがないけど、操作性はもっと工夫できるはず。なぜホイールのインターフェースを用意してすぐにキャラを切り替えできるようにしないのか疑問。
切り替えるために3回ぐらいLやRボタンをカチャカチャ押す必要があるのが大きなロスだし、切り替えている途中にその時の行動をキャンセルするのがあまりにも鬱陶しい(蘇生行動をキャンセルされるとバトルの成否に関わる)。
AIが優秀なので実際のところプレイヤーは1人のキャラだけ動かしていれば充分だけど、そうなるとバトル中にやる事が無さすぎて暇なんだよな。文句を言いながらも一応切り替えは活用していた。
しかしそもそも、このゲームの戦闘は、相手の動きを見てそれに対して何か対処する、という敵とのやり取りを求められるタイプのゲームバランスではないので、きっちりと仲間の動きを管理する必要はなかったりする。

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戦闘の鍵を握るのは、アタッカー、ディフェンダー、ヒーラー、と明確に役割が設けられたロール。アタッカーがダメージを稼ぎ、ディフェンダーがヘイトを取り、ヒーラーがひたすら回復する、という陣形を如何に崩さないかが重要。
そしてそれは、バトル中の試行錯誤ではなく、事前の準備で殆ど決まる。キャラクターはそれぞれ20種類以上のクラスから選択してキャラクリエイトすることが可能で、自由にロールの組み合わせを決めたり、レベルを上げる事で他のクラスに切り替えてもアビリティやパークを引き継ぐことができるので、かなり幅広い戦略を作り上げる事ができる。
先ほども言ったようにAIがかなり優秀なので、パーティーさえ作ったらあとはプレイヤーが頑張らなくても勝手に何とかしてくれる。
多分、このゲームは戦闘よりもキャラクリエイトに重点を置いているんだろうね。作り上げた自分だけの最強パーティーを、ちゃんと想定通りに動けているか生暖かく見守るというのが、バトルの趣旨になっているように見える。FF12のガンビットシステムを、育成システムとして作り上げたらこうなりました、という感じ。

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あと、忘れちゃいけないのがチェインアタックという要素。いわゆる必殺技で、これがボス戦においては総ダメージの8割くらいを叩き出す絶大な威力を誇っている。前作のゼノブレイド2もダメージの殆どが必殺技だったけど、その路線を引き継いでいた。
このチェインアタックも、今作は派手なだけで微妙。前作はリアルタイムに進む戦闘中に必死にお膳立てをして何とか必殺技の効果を高めようと試行錯誤するのが楽しかったけど、今回は動きが止まった中で考えさせてくれるので緊張感がない。
チェインアタックは1分間に一回くらいのペースで使えるし、しかも終盤になるとチェインアタックに匹敵する更なるスペシャルアタックを主人公が身に付けるので、なんというかあまりにもバトルが一方的。
殆どパーティー構成で決まるゲームバランスといい、優秀すぎて管理する必要性が薄いAIといい、戦闘中にプレイヤーが介入する意味があまりなくてバトルが白熱しない。あまりにも敵と戦っているという実感がない。個人的に好きな戦闘じゃなかった。
ただ、自動化の方向性が強い戦闘によって、プレイヤーに対する敷居が下がっているのは間違いない。

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そして、明確に楽になったのは、ゲーム進行。フィールドで迷う事が全くなかった。
前作は地図やマーカーの情報があえて曖昧にされていて(アップデートで修正されたが)、真っ直ぐ進んでいると行き止まりに突き当たって何回も迂回を繰り返してようやく目的地に行き着くという立体的な探索を求められたが、今作はストーリー進行上に必要な分だけで言えば凄く平面的なマップなので全く回り道することなく簡単にゴールまで辿り着けた。オマケにナビゲーションで目的地まで導いてくれるラインを出す事まで出来てしまう。
相変わらずフィールドは大きいし、クエストもたくさん散りばめられているけど、今作はレベル上げの必要性が殆どないので探索する意味を見出しづらく、俺なんかはとにかくストーリーが気になったので一直線にゴールに向かって進み、全くマップの密度を体感することなく終わってしまった。

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今までのゼノブレイドはそれなりに難しいゲームだった。戦闘も、マップ移動も、苦労や困難が伴い、簡単な道のりではなかった。
しかし今作は、とにかくサクサク進む。全くプレイヤーの行く手を阻むものはない。邪魔しようとしない。ゲーム側が懇切丁寧にゴールまで導いてくれる。これだけお膳立てしてるんだからちゃんとクリアーしてくれるよねという圧力すら感じる。
つまりストーリー。このゲームが見せたいのは、とにかくストーリーである。バトルの管理性を犠牲にしてまでパーティーを戦闘にフル参加させているのも、結局のところは全ての仲間と一緒に旅路を歩んでいるというストーリーの一体感を高めるためだろう。歯応えのあるゲーム体験を蔑ろにしてまで、このゲームはとにかくプレイヤーにストーリーを見て欲しかったのだ。

そしてそのストーリーの内容は、なるほど、確かにこれは最後まで何としても見て欲しいと思うのも分かるね。制作者の気持ちが凄く込められているもん。
これまでのゼノブレイドは、ムービーこそやたらと使いまくってストーリーを強調していたが、あくまでも冒険活劇に留まる内容でそこまで深い意図があるという話ではなかったが、今作はもうこれでもかと言うほど制作者の伝えたい事が詰まっている。
テーマは、「人間讃歌」。主人公たちは10年しか生きることができず、その短い人生の間に目的も意味もない戦うためだけの戦争を繰り返していたが、その堕落した螺旋の歯車から抜け出そうとする、というのがあらすじだけど、命の尊さを説くだけに留まらず、この設定から派生して驚くほど色んな要素を包み込んでいる。

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生きること、死ぬこと、選ぶこと、後悔すること、前に進むこと、立ち止まってしまうこと。人間の強さと弱さを両方見せながら、人間が人間であることのそのものを描いた、とてもメッセージ性が強いストーリーは見所がある。
キャラクターの見せ方も良い。主人公も仲間も敵も情熱が溢れている。心底の想いが伝わってくる。行動に理解できる。
新しい未来を作り出すのは、いつだって失敗を恐れない何かを成し遂げてやろうという前を向いた姿勢であり、そういう人たちの足を引っ張るな、というのが割と強く主張として発信されていて、全くもってその通りだと思うが、一方で、安定した心地の良い「今」に必死に縋り付き、なりふり構わずそれを守ろうとしている足を引っ張る側の心情も凄く理解できてしまう。
人の弱さを弱さとしてありのままに描き、それを否定せず受け止めてもいるこのストーリーのバランス感覚は素晴らしい。
人間社会に通じる普遍的なテーマを、ファンタジーな設定と演出であくまでエンタメとして楽しませながらも考えさせる場として提供している。率直にこのストーリーはとても良く出来ていると思う。

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そんなストーリーをムービーをたっぷり使いながら見せてくれる。
今までも凄まじいムービー量だったが、明らかに過去作よりも長い。多分20時間ぐらいはあったんじゃないかと思う。2時間ぐらい殆どコントローラーを操作しない時もあった。ムービーに対する風当たりの強さは根深いものがあるのによくもまぁここまで注ぎ込めるなと感心する。
しかし、ムービーはキャラの動きやカメラワークや音楽のタイミングなど自由に決められるのでドラマチックである。ゲームの盛り上がりや勢いを演出として強く発信できるストーリーの見せ方として有効な方法だ。
本当に、今作のムービーのクオリティは素晴らしいとしか言いようがない。ムービーでしか絶対に表現できない、心を熱くさせてくれるシーンが沢山あった。
ムービーはプレイヤーが操作できないからゲーム体験として分断させられる、みたいな意見を目にする事もあるが、そんなことはない。感情が込もったクオリティの高いムービーは、プレイヤーの気持ちを熱くさせてくれる。その気持ちの昂りは、ゲームプレイの熱量を間違いなく高めてくれる。
オープンワールドによる自由進行やストーリーの柔軟な選択といった、リアルなゲームプレイとシームレスな物語の繋がりによるストーリー体験も没入感を高める有効な方法だが、ムービーやボス戦や個性の強いキャラクターや感動的な音楽といったリアリティとはかけ離れた人工的な演出を駆使してゲーム体験の熱を高めるというのもまたRPGの選択の一つだ。それをこのゲームは清々しいまでにやりきっている。

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そういう意味で言うと、歯応えのあるゲームプレイの中で主人公たちの困難に満ちた歩みを見届けるという、ゲームとストーリーの一体感も日本のRPGの魅力であるが、その点は今作は戦闘もフィールドも物足りなくて残念だった。
しかし簡易化されたゲームプレイに対する俺の不満をかき消してくれるほど、ストーリーとムービーの演出が素晴らしかった。
やっぱり堪らんよね、日本のRPGのドラマチックな盛り上がりによるストーリー展開は。エンディングを迎えた時のカタルシスが他のゲームとは違う。明確なゴールがあって気持ちの良い終わり方を迎えさせてくれるのが日本のRPGの良いところ。
日本のRPGが好きなら絶対に買うべき作品。