信念




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スイッチのシミュレーションRPG。開発はスクエニとアートディンク。
スクエニが定期的に行っている昔の伝統的なゲームスタイルを復活させてみようキャンペーンの第何弾目か。

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戦闘は、マス目で区切られたマップの中でターンベースでキャラクターを動かしていくという、「あぁ、あれね」と誰もが想像できるオーソドックスなシミュレーションのシステム。
難易度は悩みながらもノーマルを選択したけど、その説明には「ある程度タクティクスゲームのプレイ経験がある人向け」と記載されていた。
この手のタクティクスゲームは数年前に「XCOM2」で序盤の時点で全く歯が立たず涙目になりながら逃げ帰った時以来であり、今でもシミュレーションRPGに対する自信が持てずにいたので正直不安だった。
更にゲームを少し進めた段階で、育成よりも戦略を重視したバランスであることが判明。
レベル上げができる場所が限定的で、装備やスキルツリーなどカスタマイズができる幅も狭い。明らかに育成でゴリ押しできるタイプのゲームではない。
ますます不安が高まる。最近の俺は、面倒くさくて難しいゲームは好きなスタイルの作品じゃないと中々クリアーまで到達できずにいる。XCOM2の悲劇が頭をよぎった。

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でも、何とかなった。難しいけど、楽しかったから。そしてストレスが少なかった。
まず、死んだら二度と戦線に復帰できないというタクティカルRPGお馴染みのキャラロストが今作には存在しない。なので割と無茶な事ができるし、失敗も許される。この緩さが今の俺には丁度良かった。
シミュレーションRPGとしても純粋に面白い。キャラ全員に個性があるから、はっきりと役割分担を意識できるのが戦略ゲームとして楽しいし、そこまでキッチリ管理して動かさなくてもキャラ全員を活躍させてやろうぐらいの気持ちで試行錯誤すれば何とかなるゲームバランスも絶妙。
ゲームオーバーになってもその戦いで得た経験値はリセットされないのでリトライ時のストレスも控え目。インターフェースも配慮ばっちりで、一目で欲しい情報が伝わる画面作りが素晴らしい。
とにかく遊びやすいの一言。難易度を体感させながらストレスなくタクティカルな試行錯誤を自然と誘導させるこのゲームのバランス調整は凄い。
面倒くさい事はしたくない。でも、刺激は欲しいし、白熱したバトルがやりたい。というゲームユーザーの心理を見事に突いていた。

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逆に言うとタクティカルRPG特有の硬派な達成感や緊張感はあまり無いが、遊びやすさを重視したのは、ストーリーを見て貰いたいからという側面があるのだろう。
このゲーム、ストーリーの比率が非常に大きい。ゲーム時間の半分は物語を見せるパートで占められている。
ストーリーの設定は、ある大陸の三国が利権や領土を巡って争う中で、とある当主の息子の視点を通して戦乱の時代を描くという、これまた「あぁ、あれね」とイメージできる王道な世界観の物語。
選択肢や分岐が多数存在し、ルートによって大きくストーリーが変わるあたりも、「あぁ、あれね」の正体である「タクティクスオウガ」や「FFタクティクス」を彷彿とさせるが、このゲームがユニークなのは、分岐を選ぶ時に不確定な要素が入ってくること。
具体的に言うと、重要な決断を下す時、仲間から投票を募りその結果によって選択肢が決まると言う仕組みになっている。しかもプレイヤーである主人公はその投票に参加できない。
一方で、根回しはできる。水面下で仲間とコソコソ話し合って、俺はこっちのやり方が良いと思うんだけどなぁ〜、という裏工作をして票を誘導できるのだが、どの解答がその仲間に響くのかいまいち分かりにくいし、特定のキャラは決意が固くて翻意できない事もあるので、意図した選択肢が選ばれない事も多々ある。

この辺りはプレイヤーに配慮してストレスを軽減した戦闘とは打って変わって、思い通りに物語が進まないもどかしさのある作りだが、不便な要素にこそ、ゲームが見せたいものというのは隠れている。このシステムはゲームのテーマと密接に結びついていた。
選択が求められる局面は、主義のぶつかり合いや、何を犠牲にするか選ぶというシチュエーションばかりで、はっきりとした正解が存在しない。それを国の存亡をかけたスケールの中で求めてくるし、選択によって実際に人や国の運命がガラリと変わるので、何かを選び取る事の重みが大きく伝わってくる。
非情だったり、非合理的だったり、という偏りはあるが、決してどれも間違いとは言えない。それぞれの主張が自分たちの正義に沿って筋が通っているから。情熱や信念が宿っているものは、どこかの方向に偏る。それは当然のことだ。
主人公の選択だけで物事を決め付けようとしないことで、この世界に正しいと断定できることなんて存在せず、だからこそ個人の信念は尊いものであるというこのゲームのテーマを端的に表現していた。エンタメのストーリーは「正しさ」を分かりやすく提示しようとするものが多いが、それとは一線を画したこのゲームの物語とシステムは一見の価値がある。

分岐を軸に置いて色々と変化のあるストーリーなので、緻密に物語が作り込まれたという内容ではなく、陳腐さや唐突さを感じる場面は多い。しかしプライドだったり、けじめだったり、信条だったり、そうしたキャラの感情が垣間見える場面は熱がこもっていて響くものがあった。
また、音楽がめちゃくちゃ良い。音楽だけでストーリーのドラマ性を牽引する力がある。

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マルチエンディング方式だが、物語に複数の結末が存在するというのが個人的に好きじゃないので、最初に到達したエンディングをもって俺の中でこのゲームは終わりました。
俺が見た感じでは全員が笑顔になれる終わり方は無さそうに思えたけど、ネットで知ったところ、綺麗な理想論を突き通して大団円を達成する、明確な「正しさ」を表現した王道なハッピーエンドもこのゲームには存在するらしい。
まぁやっぱりあるよね。このゲームは個人制作ではなく、大企業による定価7700円の商品だもん。夢のない現実的な終わり方しか存在しないのはエンタメとして許されないだろう。このゲームだからこそロマンに溢れた夢のある終わり方に感動できるという側面もある。
でも、ハッピーエンドのゲームは世の中に溢れるほどあるんだから、このゲームはこのゲームでしか見せられないものをやり通して欲しかったかな。