思ってたのと違ったけど、満足



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PS5のアクションゲーム。開発はタンゴゲームワークス。

なんか思ってたのと大分違った。バイオハザードと縁が深い「サイコブレイク」の開発チームが制作しているので、サバイバルやらアクションを押し出したバイオ的なゲームスタイルを想像していたけど、蓋を開けてみたら世界観を味わうためのゲームだった。

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まず、マップが広い。「サイコブレイク2 」もマップが広くてルート構築の自由度があったけど、それはあくまで「戦闘」と「サバイバル」を掘り下げるものだったのに対し、ゴーストワイヤーでは完全に「探索」と「世界観」を重点に置いているのがミソ。
サイコブレイクのように敵が強かったりアイテムが枯渇して困難な状況に陥るという切羽詰まった緊張感はあまりなく、自分のペースでゆっくり気楽に遊んで良いよというオープンワールド的な楽しみ方が強調されている。
個人的には前者のスタイルの方が好みだけど、それはさておき俺が言いたいのは、自分のペースで遊べるから周りの世界をじっくり味わう余裕が今作にはあるということ。
何しろ、このゲームの舞台は「東京」。開発は日本のスタジオ。しかもハードはハイエンドのPS5。
日本人が自分達の文化を最先端のハードで大作ゲームとして作り上げてくれているわけで、日本のユーザーからしてみればこれほど愉快な事はない。

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仏壇や押し入れ、銭湯、神社、鳥居など日本の特徴的なアイコンが散りばめられているのは勿論のこと、家の中だったり、チラシの謳い文句だったり、メールの文面だったり、細かなところが作り込まれていて日本人の生活感で溢れているので親近感湧きまくり。
特に家の中のディテールがめちゃくちゃ凝っていて、所帯感が凄い出てる。モデルハウスのような整然とした内装ではなく、ほんとに人が住んでそうな薄汚れた雰囲気があって良かった。
そしてリアリティがあるからこそ、そこに織り交ぜられたファンタジーが際立っている。このゲームの東京では数々の超常現象が発生しており、現実的な空間の中でちょっとした心霊体験ができる。メインストーリーはあんまりホラーという感じはないけど、サブクエストは色んな怪奇をテーマに作られていて面白い。
またゲームの世界に浸るという点で大きな効果を発揮しているのが、「主観視点」であること。等身大の視点はそれだけでその世界にいるという実在感を高めてくれて、作り込まれた東京の都市を没入感たっぷりに遊ぶ事が出来るのはとても楽しかった。

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アクションも日本的な要素が満載。とにもかくにも印を結んで呪術を発動するというアクションが日本的なナルシズムに満ちていて決まってる。
基本的に主観視点だと自キャラの姿が殆ど映らないのであまりアクションは映えないものだけど、動きの大部分が「手」に集約している今作においては逆にこの視点によってそこが強調されていて、カッコ良く見映えていた。
敵となる存在も、河童、ぬり壁、ろくろ首、天狗、のっぺらぼうと言った妖怪を中心に日本の伝統的なクリーチャーが多く登場。異質な力がぶつかり合う超常バトルは白熱した展開を見せる。

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でも、単調なんだよなぁ。ゲームとしてはあんまり面白くなかった。
一番残念だったのは、アクションにファンタジー的な個性がないこと。呪術は、火力が強い「炎」、連射できる「風」、範囲が広い「水」とあるが、要はスナイパーライフル、マシンガン、ショットガン、といった銃火器の見た目を置き換えているだけであり、敵も妖怪とはいえ何かトリッキーな動きや独自の対処法みたいものがあるわけでもなく、やってることは銃をぶっ放して人間を薙ぎ払っていく平凡なFPSとあまり変わらない。
コアを引き抜けば敵を即死させられるというシステムもあるけど、特定のタイミングで攻撃を当てたり、弱点を撃つとコアが出現しやすいという攻略要素はなくて、どの敵も瀕死まで追い込まないとコアが露出しないのであんまり意味がないし、攻撃を受けるリスクを冒してまで引き抜くよりそのまま呪術で倒した方が簡単じゃんとなってしまう。

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例えば敵ごとに独自の取り扱い方があって弱点を突いていけばコアが出現しやすい、みたいな要素があれば、意図を持ったアクションがしやすいし、戦い方に個性も生まれるし、呪術の節約も強調されてサバイバル的な駆け引きも出来るし、と、一気に楽しくなりそうなのに、というかサイコブレイクではそうした遊び方が出来たのに、このゲームは練り込み不足なのかシンプル性を重視したのか分からないけどそうした攻略性が無いのでただエネルギーが残っている呪術を無作為に撃つだけの単調なアクションになってる。
一応コアを引き抜くと必殺技ゲージが貯まったり、敵を麻痺させるお札が超強かったり、ステルスアタックが明らかに有効だったりと、率先して狙っていくべき仕組みはあるので、そこを軸にアクションを組み立てられる戦術性はあるけど、遊びの幅はだいぶ狭い。
呪術や妖怪といったファンタジーな世界をアピールしているだけに、バトルの単調さは目立つ。俺としてはこのゲームにアクションを期待していたので拍子抜けだった。

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まぁでも、今までは三人称視点のゲームを制作していたのにあえて今作では主観視点のカメラを採用している時点で、このゲームにおいてアクションは二の次なんだろうね。
主観視点の最大のメリットは、ゲームの世界にいるという臨場感を高められること。一方で自キャラの動きの大部分が視認できないのでアクションは大雑把になりがち。
このジャンルでも面白いバトルを実現しているゲームは沢山あるけど、どうせ探索を重視するならとなるべくサクサク進められるようシンプルに調整していても不思議ではない。
そしてもう一つ、クリアーのハードルを下げることで多くのユーザーにストーリーを最後まで見て欲しいという意図もあるのだろう。

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何しろこのゲーム、ストーリーにかなり力が入ってる。プレイヤーに主導権を委ねたゲーム進行、主観視点、というユーザー視点を強調した構成なので、普通はプレイヤー自身が主役であることを明確にするために無個性なアバターを操作させるものだが、本作の主人公は確固としたアイデンティティを持っている。名前があり、目的があり、守らなければならない大切な人が存在する。
プレイヤーのペースでゲームを進行することは出来るけど、あくまでもストーリーの軸にあるのは主人公「暁人」の想いであって、そこにユーザーが介入できる余地はない。
そうした主人公のための物語となっているので、ストーリー側から発信される主張がかなり強い。テーマにあるのは「悔いなく生きる」ということであり、終盤のドラマチックな展開には胸が熱くなった。
そのテーマは未練を残したまま死んでしまったせいで現世に縛り付けられているゴースト達の存在と対比になっており、ストーリーを補強するバックボーンがプレイヤーの歩む道として体験できるからメッセージ性がより活きてる。「死」に満ちたこのゲームだからこそ感情的に伝わってくる物語になっていた。

また、演出やキャラクターの見せ方が日本のエンタメスタイル全開で、物語を盛り上げてくれる。特に主人公に「KK」というおっさんの思念が取り憑いているという設定が面白い。
主人公の中に宿っているので切り離すことができない一心同体の存在だが、それゆえに常にそばにいてやたらと絡んでもくれるので、人間が完全に消滅してしまったこの世界の中でも孤独じゃない。
2人の掛け合いがまた愉快で、コンビニの品揃えへの文句だったり、幽霊に対する思い出だったり、主人公にちょっかいをかけてみたり、本筋とは関係のないところでもどうでも良いくだらないやり取りがたくさんあって楽しかった。憎めない相棒として良いキャラしてる。
暁人とKKの関係性もストーリーの重要な部分であり、印象的な見せ方をしていた。

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「サイコブレイク」は日本のスタジオが制作しながらどちらかというと欧米色が強いゲーム内容、デザインだったが、今作は舞台が東京であるというだけでなく、あらゆる部分で日本のエンタメスタイルが推し進められている。
アクションは完全に期待外れだったが、ストーリーや世界観を味わうゲームとしてはとても面白い。プレイヤーと駆け引きしよういう野心は控え目で、ストレスなく気持ち良く満足させたいというサービス精神が感じられるゲームだった。サイコブレイクのゲームスタイルからしてまさかこっちの方向性で来るとは予想外だったけど、魅力があるゲームなのは間違いない。
いやー、終わり方が良かったねほんと。不満はあるけど、心地の良い結末はそうしたネガティブな感情を消し去ってくれる。心を満たしてくれる。結果的に俺はとても満足しました。