VRとストーリー




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PSVRのアドベンチャーゲーム。開発はMyDearest。

久しぶりにPSVRをテレビに接続した。
最近のVRの特等席はもっぱらダンボールの中で、もうあれを頭に付けるのが億劫で仕方ないが、流石にこのゲームを無視するわけにはいかなかった。
VRの魅力と言えば、プレイヤーを360度バーチャル空間で囲んでまるで自分がゲームの中に入ったような感覚を得られることで、基本的にはアクションを中心としたアトラクション的な内容のものが多い。
しかし東京クロノスはストーリーの一点に特化した本格アドベンチャーゲーム。俺の好きなジャンルだ。VRでのストーリー表現がどうなるのか気になって仕方ない。
俺は重い腰を上げてVRを接続するのであった。

日本のアドベンチャーゲームと言うと基本的に紙芝居スタイルが多いが、これはVRなので当然三次元の映像で作られている。
そのVRの感覚はどうなのかと言うと、他のVRと比べるとかなり地味。
とりあえずキャラクターが殆ど棒立ちで動かない。立ち絵を切り替えて動いているように表現をしているが、リアルタイムでの動きがあるわけではない。たまにキャラを接近させて距離感を感じさせられる以外はいつもの紙芝居を見ている感覚と殆ど変わらなかった。
テキストは見易い。VRは360度の映像が広がっているので当然見えない部分というのが発生するわけだが、テキストは自分の頭の動きに合わせて追いかけてくれるので見失うことは無かった。
ただ、このテキストが没入感を阻害してる面はある。目の前で大変な事態が起こっても、キャラが必死の演技をしても、何よりまずテキストが気になるし、目に入る。どうしても映像よりテキストの方に目線が流れてしまうので、自分がゲームの空間の中に入っているという感覚に浸りにくかった。いつもの紙芝居と同じように感じられたのはこれが大きいかも知れない。

VRの大きな特徴として、ゲームに集中しやすいというのがある。
普通のゲームならテレビの画面以外では日常的な情報が溢れているがVRならそれをシャットアウトできるし、何よりスマホの魅惑から隔絶できるのはメチャクチャ大きい。
俺も結構なスマホ患者で、特にスワローズ戦が開催中の時は5分に1回は速報を見ないと気が済まないが、流石にVR中はスマホを起動する気になれない。とにかくデバイスを外すのが面倒くさいので。
映画館では嫌でも映画に集中せざるを得ないのと同じように、VRは反強制的にゲームに集中させてくれる。
しかし、VRの環境がゲームに集中しやすいというのは半分本当だが、半分は嘘である。少しでもデバイスが傾くと視界がボヤけるからしょっちゅう手を止めて調整しないといけないし、中は蒸れやすく髪とか顔がムズムズしても場所によってはデバイスを外さないと為す術がないし、何よりゲームによっては酔いで体調が悪くなったりと、結局色々あって邪魔をされる。
これはVRの特性上、仕方のないことではあるけど、今回もかなり集中を阻害されたのは否定できない。
とは言え今回は動きが少ないこともあって酔いに関しては全く無かった。なので長時間遊んでも平気だったのはとても助かった。とにかくストーリーの先が気になって仕方なかったから。

“突然誰もいない孤立した渋谷に飛ばされた8人の高校生。
彼らの記憶は曖昧だったが、8人が幼馴染であることは覚えていた。
隔絶された渋谷から脱出する手掛かりは一つ。
ビルの大型ビジョンに表示された「私は死んだ。犯人は誰?」というメッセージ・・・”

ストーリーの前半はスロースタート。
次々と幼馴染が渋谷から消えていく現象を軸に話が展開されるが、その答えが分かりきっているのであまり引き込まれない。
普通なら一番にその答えが思いつきそうなのに、わざとらしく見当違いの推理ばかりしているキャラクターを見るとなんかイライラする。まぁそうしないと話がスムーズに動かないから仕方ないけど。
そんな感じでどうでも良い消滅現象を中心にグダグダと中盤まで話が進むが、ある出来事を境にいきなりスイッチが入る。
次々と新情報が湧いて出て来て、え?え?と呆気に取られている間に猛スピードで話が進む。答え丸分かりの消滅問題は過去の遺物となり、全く違う方向にストーリーは急展開する。
この急なエンジン点火とストーリーの垂直変化はかなりの驚きで、その推進力で後半からはグイグイ引き込まれる。8人の過去のトラウマが話のメインとなるが、それなりに説得力を持って心の傷を描いていた。
終盤は「なぜあの人があんなことをしたのか」という部分が軸になるわけだけど、これに関しても簡単に察しが付く。
でも、それは裏を返せばそのキャラクターの人間性や幼馴染の絆をちゃんと描写できているから察しが付くのであって、キャラの掘り下げに関しては申し分なかった。
最後は良かったね。ここでついにVRの本領が発揮される。VRじゃなかったら間違いなく感動は半減していたはず。自分がいて、仲間がいて、世界がそこにある。VRだからこそ得られるエモーションがあった。とても気持ちの良い終わり方だったよ。

キャラクターの行動や考え方があまりにも美しく理想化され過ぎているというか、如何にもアニメ的な感じはあるが、だからこそとても爽やかな仕上がりとなっている。このゲームに関してはこれくらいエグみが薄い方が良い。
正直普通のテキストノベルで良くね?と思いながらプレイしてたけど、最後の最後でVRの威力を思い知った。
あのシーンだけでも、VRで作る価値があったと断言できるね。決してVRじゃないと出来ないストーリーではないが、VRでしか味わえない感動がある。
とは言えそれ以外の部分では恩恵があまり感じられなかったのも事実で、VR特化のストーリーゲームとして、もっとその魅力を発揮した作りにして欲しかったかな。