お節介なファンサービス。ネタバレ無し




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PS4とXbox OneのアクションRPG。開発はスクウェア・エニックス。

俺はキングダムハーツシリーズの大ファンである。今まで何百というゲームシリーズに触れてきたが、その中から気に入っているタイトルを挙げろと言われたら3番目か4番目に思い浮かぶのがこのフランチャイズだ。
もちろんシリーズ作品は全部やっている。あ、ブラウザのやつは勘弁な。そもそもPCすら持ってないし。
ともかくコンシューマで出た作品は全部クリアーまで遊んでいる。初代と2に関してはリマスターで念押しプレイもしている。
このシリーズにとって、過去作をちゃんとプレイしているというのは大事なことだ。なにしろシナリオが明確に繋がっているから。
前の話を知ってたらニヤニヤできるとか、軽く伏線が張られているとか、そんなレベルではない。シリーズ各作品を通して一本の大きな物語が出来上がっている。一つでも抜かせば不完全となってしまう。
にも関わらず、対応ハードはバラバラでかなりハードルは高いが、俺はあらゆるハードを所持している由緒正しきゲームオタクなので問題にならない。うわー、なにこの人キモーい。今はPS4さえ持っていれば全てのキングダムハーツが遊べる(ストーリーを纏めただけの作品も含まれる)パックもあるから由緒正しくなくても安心だね!
しかし困ったのはいつまで経っても物語の終わりが見えないこと。携帯機の外伝作品でストーリーを膨らませ続けているが、なかなか決着が付かない。黒幕はとっくにバラされているが、そいつがニヤニヤしているのを眺めているばかりだ。
当然、完結編となるとある程度の格が求められる。元はPS2で始まったシリーズであることを考えれば、据え置き機で締めるしかあり得ないだろう。
しかしスクエニは中々動かなかった。2007年に2のインターナショナル版が発売されてからキングダムハーツは据え置き機から姿を消した。
シリーズディレクターの野村氏がヴェルサスやFF15の超大作の製作に取り掛かっていたとか、PS3が盛大に出遅れてその間にDSが大ヒットして客の据え置き機離れが始まったとか、スクエニ自体あまり業績が良くなかったとか、理由はいろいろあるだろうが、とにかく据え置き機では全く音沙汰がなかった。
その間にも携帯機でシリーズ作品は発売され続け、物語がいよいよ破裂寸前まで肥大化したところでようやく3が発表。対応ハードは当時まだ世に出ていなかった次世代機のPS4。
2013年のE3だったな。今でも覚えてる。あの時はその直前FFヴェルサスに久しぶりの続報が来てタイトルがFF15に変わって、その流れでキングダムハーツのナンバリングが発表されたんだっけ。当時の自分の雑感を見たらあまりにもテンションが高くて笑った。
それからまた待たされたが、この2019年1月25日。発表から5年半。俺がキングダムハーツを初めてプレイしてから10年。ようやくダークシーカー編の最終章、ナンバリング最新作の発売である。
あくまで一つの節目が終わるだけで、シリーズはこれからも続く。しかしダークシーカー編とは初代からずっと続いてきた本筋であり、これが完結するということは今までの決着が付くと言っても過言ではない。
ふぅ。俺はこの日のためにずっと付き合い続けてきたんだ。キングダムハーツのように長年かけて一つのストーリーを描き続けているゲームシリーズはあまり多くない。俺の知ってるところでは他に英雄伝説ぐらいか。普通に考えて十何年も物語が完結せずに話が続いているなんて異常だ。
にも関わらず、最新作の初週売り上げは64万本。ダウンロード版を含めれば70万はいくはず。この数字はシリーズ最高売上の2の初動とほぼ変わらない。シリーズの人気は未だに健在だ。俺が言うのもなんだが、よくこんな手法でファンが付いて来てくれるなと思う。ストーリーなんか覚えてらんないよ。
それはスクエニも分かってるので、事前にシリーズのハイライトをまとめた動画が公開された。もちろん俺は見た。ふんふん、意外と覚えてるもんだな。思い出した!みたいな情報はあまりなかった。まぁキングダムハーツって設定がややこしいだけで、絶対に知っておかなければならない情報ってそんなにないもんな。
念のためハイライト動画を2回見て予習はバッチリ。何故か発売日の翌日から8連休だし、準備は完璧。全ては整った。あとは俺がキングダムハーツ3をプレイするだけだ!

とりあえず、映像が凄い。とにもかくにも映像が凄い。本当に映像が凄い。この部分は本気で驚いた。
PS3世代をすっ飛ばしての新作であるわけだが、映像の進化は凄まじいとしか言いようがない。
キングダムハーツと言えばディズニーワールドを体験できるのも魅力だが、もはや映画の中でキャラクターが動いていると言っても過言ではないレベル。流石に実際の映画の方がクオリティは高いんだろうけど、そんなの些細なもの。俺は正直見分けがつかん。アナ雪の例のミュージカルシーンとか最初は映画から抜粋したのかと思ったくらい。
しかもムービーではなくて、リアルタイムでこのクオリティなのだから驚きを隠せない。つまるところ映画と遜色ない映像クオリティの中でゲームキャラを動かせる。ゲームの映像レベルは映画に迫っているとはよく聞くが、本当の意味でそれを実感した気がする。
今作のディズニーワールドはピクサー映画も加わったことで俺にとってかなり馴染み深いものが増えた。トイストーリー、アナと雪の女王、ベイマックス、ラプンツェル、モンスターズインク。などなど。
正直、今まではあまり関心のないディズニーワールドが多くてどうでも良いやという感じだったが、今作は興味のあるタイトルが多くて良かった。
まぁ相変わらずシナリオがいい加減だし、メインストーリーにもあまり繋がってこないので、正直俺はディズニー要素いらないと思うが、ハイクオリティで作られたディズニーワールドを体験できるのはやはり楽しいものがある。トイストーリーの世界とか最高だったな。
いつもに比べて収録作品のCG映画の比率が高い気がするが、それだけCGのクオリティに自信があるということだろう。

映像が凄いのはディズニー・ピクサーワールドの再現だけではない。アクション面でもとんでもない事になっていた。
あまりにも派手すぎるエフェクトの飛び散り具合に口あんぐり。主人公の周りで軽く天変地異でも起こってるかのようなカタストロフ感。凄すぎて笑うしかない。ハッタリもここまで突き詰めれば本物。これほどゴージャスな戦闘は今まで見た事がない。しかも何でこれで処理落ちが全く起きないの?おかしくね?スクエニの技術力は異常だ。
RPGの面倒くさい部分の一つに雑魚戦の退屈さが挙げられるが、これは前代未聞レベルの派手さで展開される戦闘が楽しすぎて全く苦にならなかった。

まだ映像で印象に残ったシーンがある。ある場面の敵の物量。万単位に達しているんじゃないかって数の敵が襲いかかってくるのだからぶったまげた。
キングダムハーツ2で1000を超える敵と戦う場面があって、PS2のマシンパワーで良くやるなーと思ったが、流石はPS4、それを遥かに超えるスケールをやってみせた。
とにかくこのゲームの映像は凄い。久しぶりにゲームのグラフィックでワクワクした。PS4世代になってからあまり映像に驚かなくなったというか、凄いと思ってもリアリティ重視の質感が多いので綺麗だなーくらいにしか感じなかったが、これは単純に派手でスケールがデカくてゴージャスで、純粋な映像のパワーというものを実感させられた。

おしまいです。このゲームの良いところを書くのは。ここからは良くないことを書かなければいけない。好きなシリーズの批判をするのは気分が乗らないが、俺がそう感じてしまったのだからどうしようもない。
今となっては、本当にこのシリーズが俺にとって特別だったのか分からないところもあるが・・・

まず、戦闘がただ派手なだけになってしまった。難易度は大幅に引き下げられている。
すぐに何かしらの大技が使えるようになるのでひたすらそれでゴリ押すだけ。戦闘の8割はスペシャルアタックで占められていると言っても過言ではない。
雑魚戦は別にそれでも構わないが、ボス戦も節操なく大技を連発していれば済むので駆け引きもクソもない。ただ派手なエフェクトに乗せられてボタンを連打するだけ。もちろん敵も反撃してくるが、こちらの火力に追いつくことはない。ラスボス以外では一度もゲームオーバーにならなかったし、アイテムも殆ど使う必要がなかった。
キングダムハーツは案外難しいゲームだ。特に初代と2はかなり苦戦を強いられた記憶がある。だから白熱する。物語に熱が帯びる。行く手を阻む強敵と戦い、何度も挫折を味わいながらも、なんとか突破して己の道を切り開く。
プレイヤーも困難を強いられるから、主人公たちの戦いをプレイヤーが感情としてシンクロすることができる。そしてその熱がストーリーに繋がる。だからキャラに愛着が湧き、彼らの決断に共感し、果てに迎える結末に感動できる。これがゲームという媒体にしか出来ないことであり、RPGならではのストーリー体験だ。ゲームでまでストレスを溜めたくないという意見もあるだろうが、俺はRPGのこの感覚がたまらなく好きだ。
しかし、キングダムハーツ3はこの感覚が全くない。マップのギミックも戦闘も全て惰性でこなせる。主人公は苦難の連続だが、プレイヤーはゴールまで遊園地気分でいられる。ユーザーが少しでも不快に感じそうな部分は排除するという、如何にも現代的な作りだ。
今作は雑魚戦のゴリ押し戦闘が楽しくてレベル上げが苦にならないんだから、ボス戦は思いっきり難しくしてくれて良かったよ。

そして、ストーリー。これがなぁ。とにかく面白くなかった、の一言に尽きる。
いや、纏まってるよ、ちゃんと。初代から続いたストーリーに決着を付けているし、伏線も回収している。
それだけで満足、と俺は言えない。面白くなかったから。とにかく退屈だった。このゲームのストーリーは、ただ話が破綻しないように帳尻を合わせているだけ。このストーリーを通して何を主張したいのか、作り手はいったい何を見せたいのか、それが全く伝わってこない。
プレイヤーに分かりやすく状況を解説してくれる敵の組織。ファンを喜ばせることだけが目的のあまりにも都合が良すぎるキャラの待遇。テンプレートにも程がある黒幕の思惑。
なんというか、ストーリーの動きが、キャラクターの意思に向いていない。最近はプレイヤーの選択を重視したマルチシナリオも多いが、キングダムハーツのようなキャラクター視点のRPGの良いところは、登場人物の想いを感じ取ることが出来て、その強い意思が物語を動かすドラマチックな展開だ。
だけどこのゲームには、ファンが喜ぶようにとか、綺麗に話を纏めなきゃいけないとか、そんな制作者の事情ばかりがストーリーから滲み出ていてドラマの欠片もない。キャラクターから想いを感じ取れない。
もちろんこれはゲームだから制作者という創造主がいるわけだが、あ、これ作り手がキャラ動かしてるなーということが丸分かりだと本当に冷める。作中で行われていることが全部台本が用意されたお遊びに見えてしまうから。キングダムハーツ3がまさにそれ。

例えばキングダムハーツ2は、踏み込んだ表現をしていた。
最初からいきなり初めて顔を見る男の子を動かすことになり、それもバイトをしろだとか、夏休みの宿題のために街の七不思議を見つけろとか、有り触れた日常をダラダラと過ごすだけで、これが3時間くらいも続く。終いにはその男の子、ロクサスは消えてしまう。
このパートは制作側として中々勇気がいる試みだったと思う。はっきり言ってゲームとしては退屈だし、キャラクターは知らないやつらばかりだし、ディズニーも出てこないし、操作してた男の子は最後に消えてしまうし、意味不明だから。俺も最初は早く本編始まれよと思ってた。
しかしキングダムハーツ2は、主人公ソラの物語であると同時にロクサスの物語でもあり、プロローグの意味が次第に分かるようになる。ロクサスがどういうキャラクターなのか知ることは、キングダムハーツ2のストーリーに入り込むうえで非常に大事なことなのだ。
ロクサスは主人公の心が失われた際に生まれた抜け殻のような存在で、最初のプロローグはソラを完全体に戻すためにロクサスが見せられていた夢。夢の中で主人公と出会い、ロクサスという存在が消えることで、ソラは完全復活を果たす。
ゲームを進めていくごとにロクサスの悲しい存在理由が判明し、俺はいつのまにか彼に深く同情していた。何しろ消えるまでの過程をロクサスの視点で体験させられていたのだから。まさしくゲームだからこそ出来る手法だ。いつまでも俺の頭の中でロクサスが最後に呟いた「俺の夏休み、終わっちゃったよ」という言葉が反芻する。俺はまんまと制作者の掌の上で踊らされていた。
最後の、己の存在をかけて挑んできたロクサスとの戦いは、胸を打ったよ。だって彼は本気だから。まさしく全身全霊だった。それが伝わってくる過程があった。バトルの難易度が高いのと素晴らしい音楽も相まって、ゲーム体験としてストーリーの熱が伝わってきた。
キングダムハーツ2のストーリーは間違いなくドラマがあった。キャラが葛藤し、欲求し、激昂し、感動していた。その意思の結果として物語が動いていた。だから俺はあの物語に大変心を動かされた。

一方で、キングダムハーツ3は何もドラマがない。とにかく分かりやすく、とにかくファンが喜んでくれるように、そんなことばかりが伝わってくるストーリー展開。
戦闘の難易度が異常に低いのも頷ける。今作は本気のぶつかり合いではなく、ただ台本通りにキャラクターが動く作りもののドラマなのだから、プレイヤーもただの傍観者で良いわけだ。
要するに今作はファンサービスなんだろうなと思う。これまで付いて来てくれたファンへの贈り物。
そりゃあ物語に真剣味なんか感じられるわけがない。やってることはプロレスみたいなものだから。観客の反応を気にしながらキャラが動き、ストーリーが進んでいるんだから。

下村氏が担当する音楽は相変わらず素晴らしかった。腑抜けたストーリーが展開される中で孤軍奮闘。音楽が素晴らしいので何となく良いシーンを見ているような気分にさせられる。
特に、ロクサスのテーマは最高。異論は許さない。俺の心の一曲だ。

・・・このゲームをプレイしている間、ずっと思ってたことがある。俺、実はそんなにキングダムハーツ好きじゃなかったかもって。
俺はゲームにおいてかなりストーリー体験を重視するタイプで、そういう意味でキングダムハーツは物語性の高い構成なので好みであるのは間違いないが、2と358を除けばストーリーが良かったと思ったことはない。
更に言うと俺はキャラが勝手にストーリーを動かすタイプの物語が好きで、そう言う意味でもキングダムハーツはズバリ当てはまるが、ロクサス以外で好きなキャラは見当たらない。
キングダムハーツと言えばディズニーの世界観も魅力だが、別に俺は好きでも嫌いでもない。キングダムハーツにおいてはむしろディズニー要素は邪魔だと思ってる。
ゲーム部分にそれほど惚れ込んでいるわけでもなく、アクションは可もなく不可もなしだし、システムとして斬新性があるわけでもない。
あれ?俺、キングダムハーツのこと大ファンだと勝手に思ってたけど、実はそんなこと無いんじゃね?
結局、俺はキングダムハーツ2とロクサスが好きなだけなのかもな。

今作は明らかにファンサービスに徹した商品として仕上がっているが、キングダムハーツが実はそんなに好きではなかった俺にとって、ファンサービスの本作は全く響かなかった。
ファンのために・・・ね。そりゃゲームは芸術ではなくて商売だけど、物語というのは一つの世界が存在して構築されるわけで、その中に住んでいる人がいて、社会があって、意思があって、だからストーリーが生まれる。
それは紛れもなくその世界で成立しているリアリティがあるから成せる技で、その秩序の取れた世界に商売という宇宙からの侵略者がやって来たら、そりゃストーリーに真実味は無くなってしまうわな。

しかし終始予定調和の枠を超えない内容だったけど、シークレットムービーの中身には腰を抜かした。俺がいまだに未練を残しているあのゲームを彷彿とさせるムービーで、ものすごく昂ぶってしまった。
いやー、ありがとう野村哲也。あれは俺にとって最高のファンサービスだったよ。