現代病理に踏み込んだRPG

"誰かが言った。この世界は自分を求めてないと。
誰かが言った。この世界は生き苦しいと。
誰かが言った。この世界から逃げ出したいと。
現実に苦悩した人間の声なき声によって、ボーカロイドuは生まれた。そして彼女は思った。
「みんなの苦しみを取り除いてあげたい。辛い現実を忘れさせてあげたい」
何でも理想が叶う世界、メビウスが生まれ、人々は引き寄せられていく。"
PSVITAのRPG。開発はアクリア。
・戦闘のテンポが悪いのに雑魚が詰め込まれすぎで面倒くさい
・あれを倒せ、これを探せ、と、ダンジョンの中を行ったり来たりさせられる作りなのに倒した雑魚がすぐ沸く
・そこら中にクリアー推奨レベルからかけ離れた異様に強い敵がウロついているのにエスケープが成功しにくく、一部の敵は逃げる事すらできず、エンカウントした時点で全滅確定なのに何も対処手段がない
・上のバランス取りなのにセーブポイントからリスタート
・ゲームの進行がお使い的でストーリーがブツ切り
・親密度を上げる方法がただのボタン連打で味気ない。技の連携であげることもできるが、ボタン連打の方が遥かに効率が良い
・分かりにくいシステムと仕様だらけなのにTIPSをまとめたものがない
・ロードが長すぎる
・カメラがクソ
面倒くさい。本当に面倒くさいゲームだった。3章までの面倒くさい曲線の上がりっぷりたらハンパじゃなく、中盤にすら行ってないのにクライマックスかと思うほどの複雑さと難易度で、先の事を思うと身が震える思いだったが、そこからペースダウンしてくれたおかげで何とかクリアーできた。ラストダンジョンは目眩がしたけど。
チープで、分かりにくくて、作業的で、そして面倒くさい、かなり粗削りで低予算な作りではあるが、しかしこのゲームには上のハードルを乗り越えてクリアーまでプレイさせる魅力がある。とにかく、戦闘システムとストーリーに光るものがあった。
まず、戦闘。距離やリーチの概念があるが、基本的にターンベースで、移動やアクションなどの行動は全てSPを消費する。当然、SPゲージが許す限りしか行動はできない。ここまでは平均的なRPGの戦闘システムという感じだが、他と一線を画しているのは、一定時間先の未来が見える、ということ。攻撃前に時間が止まり、選択したスキルに応じた未来のビジョンが流れ、どのタイミングで敵が攻撃してくるか、自分のアクションがどう敵に作用するか、付加効果の発動が成功するか、など、全部分かる。
これで何が起こるのかと言うと、キャラの攻撃のタイミングを合わせてコンボを作ることができる。スキルはすぐ発動するのではなく、ある程度タイミングを調整できるので、これを利用することで、浮いたりダウンした敵に応じて追加攻撃が派生する連携技を決めやすくなるわけだ。当然コンボが決まるとダメージは大きくなるし、映像的にもスタイリッシュでカッコ良い。また、このシステムは敵の動きを先読みしてカウンターを当てたり、回避したりということにも利用できる。
計算に計算を重ねて行動スケジュールを組み、実際にちゃんと動いてくれるか試すこの感覚は簡易AIを組んでる感じで、狙い通りに攻撃をかわせたり、連携が決まると、カタルシスが凄い。これはかなりクセになる面白さがある。
要するにシミュレーター色が強い戦闘システムなのだが、命中率や相手の攻撃、スキルの詠唱・凍結タイムなど、色々な不確定要素が混ざって来るので、全員が同じタイミングで行動できる最初のターン以外は思い通りにコントロールするのはかなり難しい。しかし、この乱数に踊らされる感触はまさしくRPGという感じで、ゲームバランス的にもそこまでコンボが必須というわけではないし、シミュレーターとRPGのちょうど良い所を突いている。
ただ、このシステムはテンポが悪い。キャラにターンが回ってくるたびに一々時間が止まるし、未来のビジョンを確認しながら、あーでもないこーでもないと微調整してるとかなり時間がかかる。これはシステム上仕方のないことだが、なるべく戦闘回数を減らして敵とは要所要所で戦わせる調整にするべきだったと思う。せめてエスケープはもっと容易にできるようにすべき。なのに普通のRPG感覚でガンガン雑魚と戦わせるバランスなのだから気が利いてないとしか言いようがない。
そして、ストーリー。まぁ物語自体はよくある感じなんだよね。敵味方問わずどいつもこいつもウジウジしてて、あー女神転生やペルソナで見た展開だなぁーとしか言いようがなく、はいはいトラウマトラウマ、と普段なら流してしまうが、このゲームにおいては中々に真実味を持って迫ってきた。それはひとえに、設定がとても現代的だから。
満ち足りない人間たちによって生まれたボーカロイド、u。それが作り出す理想の世界、メビウス。そこに人々は囚われ、現実を忘れ夢の世界を満喫する。
かなり極端に描かれているが、無条件に愛を振りまき、人々の心を浄化させるuは偶像であり、現代の神だ。人々を幸せにしたいというuの一途な想いは、それが原因で人々が堕落しているという現実を思うと切ない。
このuの歌声に惹かれて住み着いたメビウスの住人は、何かに熱狂して心の空洞を埋めようとする現代のオタクそのものであり、自分の中にないものを心の柱として生きている人間の構造をかなり直接的に表現している。メビウスでは現実の自分の記憶がなくなって理想の姿になるというのも、ネットを比喩したものだろう。
現代病理に深く踏み込んだこの設定によって、ありきたりなトラウマストーリーにリアリティが宿っている。迫真性がある。この世界観は、このゲーム最大の魅力だ。
しかし、単にウジウジしてるだけの話ではない。主人公たちは、たとえ苦しくても、バーチャルが幸せの世界でも、辛い現実に帰ろうとする。この前向きな姿勢がとても良い。初めは何故現実に帰りたいのか明かされないが、キャラクター毎のストーリーを進めていくと、彼らの想いが伝わってくる。最後の展開は正直生温いが、心の柱ではなく、心の支えとして見守るという、ちょうど良い距離感に収まった終わり方は、このゲームのテーマに対するとても良い解答。
「理想(きみ)を壊して、現実(じごく)に帰る」というカリギュラのキャッチコピーは、なるほど、現代病理を痛烈に風刺しているだけでなく、破滅に導いていることも知らず一途に人々を救おうとするuの悲哀と、主人公たちの葛藤と前向きな意志が伝わってくる、痛烈なメッセージだ。
ただし、メビウスのルールがいまいち定まってないのと、あんまり理想の世界な感じが伝わって来ないのはマイナス。最初の数時間はメビウスの世界をそれとなく表現した日常中心のパートを入れて良かったと思うけどね。徐々に、あれ、この世界おかしいんじゃね?とミステリー的な引きにも出来るし。まぁ予算がなかったんだろうなぁ。イベント作るのは一番金かかりそうだし。
uというボーカロイドを象徴としているだけあって、音楽はネットで人気の音楽クリエイターに作らせている。この歌詞がまたとても自己中心的だし自意識過剰だし願望の塊なのだが、これはゲームの性格を的確に表していて素晴らしい。フィールドを歩いているときはBGMのみだが、戦闘に入るとボーカルが入り、ボス戦ではリミックスになるという演出はかなり盛り上がる。
いやぁ、単なるキャラ萌え学園ジュブナイルじゃなかった。これは学園ジュブナイルだからこそできるストーリーだ。ストーリーを中心にかなりしっかりと作り込まれており、何かが伝わるものを世に出そうという姿勢が見て取れる。戦闘システムも意欲的で、新規タイトルらしい粗さと勢いがある。
コンシューマのゲームが売れないこの時代に、ここまで面倒くさいゲームバランスで、分かりにくいゲームシステムで、見たくないものを見せてくるシナリオで、ゲームを作ってくるフリューのチャレンジスピリッツは凄い。
ペルソナに似てるから気になるなぁという人は、確かに学園ジュブナイルと言うジャンルは同じだけど、ペルソナがリア充モテモテハーレム学園ライフを送るストーリーなのに対し、カリギュラはメインキャラが便所飯したり中年ニートだったりするゲームなので注意してね。

"誰かが言った。この世界は自分を求めてないと。
誰かが言った。この世界は生き苦しいと。
誰かが言った。この世界から逃げ出したいと。
現実に苦悩した人間の声なき声によって、ボーカロイドuは生まれた。そして彼女は思った。
「みんなの苦しみを取り除いてあげたい。辛い現実を忘れさせてあげたい」
何でも理想が叶う世界、メビウスが生まれ、人々は引き寄せられていく。"
PSVITAのRPG。開発はアクリア。
・戦闘のテンポが悪いのに雑魚が詰め込まれすぎで面倒くさい
・あれを倒せ、これを探せ、と、ダンジョンの中を行ったり来たりさせられる作りなのに倒した雑魚がすぐ沸く
・そこら中にクリアー推奨レベルからかけ離れた異様に強い敵がウロついているのにエスケープが成功しにくく、一部の敵は逃げる事すらできず、エンカウントした時点で全滅確定なのに何も対処手段がない
・上のバランス取りなのにセーブポイントからリスタート
・ゲームの進行がお使い的でストーリーがブツ切り
・親密度を上げる方法がただのボタン連打で味気ない。技の連携であげることもできるが、ボタン連打の方が遥かに効率が良い
・分かりにくいシステムと仕様だらけなのにTIPSをまとめたものがない
・ロードが長すぎる
・カメラがクソ
面倒くさい。本当に面倒くさいゲームだった。3章までの面倒くさい曲線の上がりっぷりたらハンパじゃなく、中盤にすら行ってないのにクライマックスかと思うほどの複雑さと難易度で、先の事を思うと身が震える思いだったが、そこからペースダウンしてくれたおかげで何とかクリアーできた。ラストダンジョンは目眩がしたけど。
チープで、分かりにくくて、作業的で、そして面倒くさい、かなり粗削りで低予算な作りではあるが、しかしこのゲームには上のハードルを乗り越えてクリアーまでプレイさせる魅力がある。とにかく、戦闘システムとストーリーに光るものがあった。
まず、戦闘。距離やリーチの概念があるが、基本的にターンベースで、移動やアクションなどの行動は全てSPを消費する。当然、SPゲージが許す限りしか行動はできない。ここまでは平均的なRPGの戦闘システムという感じだが、他と一線を画しているのは、一定時間先の未来が見える、ということ。攻撃前に時間が止まり、選択したスキルに応じた未来のビジョンが流れ、どのタイミングで敵が攻撃してくるか、自分のアクションがどう敵に作用するか、付加効果の発動が成功するか、など、全部分かる。
これで何が起こるのかと言うと、キャラの攻撃のタイミングを合わせてコンボを作ることができる。スキルはすぐ発動するのではなく、ある程度タイミングを調整できるので、これを利用することで、浮いたりダウンした敵に応じて追加攻撃が派生する連携技を決めやすくなるわけだ。当然コンボが決まるとダメージは大きくなるし、映像的にもスタイリッシュでカッコ良い。また、このシステムは敵の動きを先読みしてカウンターを当てたり、回避したりということにも利用できる。
計算に計算を重ねて行動スケジュールを組み、実際にちゃんと動いてくれるか試すこの感覚は簡易AIを組んでる感じで、狙い通りに攻撃をかわせたり、連携が決まると、カタルシスが凄い。これはかなりクセになる面白さがある。
要するにシミュレーター色が強い戦闘システムなのだが、命中率や相手の攻撃、スキルの詠唱・凍結タイムなど、色々な不確定要素が混ざって来るので、全員が同じタイミングで行動できる最初のターン以外は思い通りにコントロールするのはかなり難しい。しかし、この乱数に踊らされる感触はまさしくRPGという感じで、ゲームバランス的にもそこまでコンボが必須というわけではないし、シミュレーターとRPGのちょうど良い所を突いている。
ただ、このシステムはテンポが悪い。キャラにターンが回ってくるたびに一々時間が止まるし、未来のビジョンを確認しながら、あーでもないこーでもないと微調整してるとかなり時間がかかる。これはシステム上仕方のないことだが、なるべく戦闘回数を減らして敵とは要所要所で戦わせる調整にするべきだったと思う。せめてエスケープはもっと容易にできるようにすべき。なのに普通のRPG感覚でガンガン雑魚と戦わせるバランスなのだから気が利いてないとしか言いようがない。
そして、ストーリー。まぁ物語自体はよくある感じなんだよね。敵味方問わずどいつもこいつもウジウジしてて、あー女神転生やペルソナで見た展開だなぁーとしか言いようがなく、はいはいトラウマトラウマ、と普段なら流してしまうが、このゲームにおいては中々に真実味を持って迫ってきた。それはひとえに、設定がとても現代的だから。
満ち足りない人間たちによって生まれたボーカロイド、u。それが作り出す理想の世界、メビウス。そこに人々は囚われ、現実を忘れ夢の世界を満喫する。
かなり極端に描かれているが、無条件に愛を振りまき、人々の心を浄化させるuは偶像であり、現代の神だ。人々を幸せにしたいというuの一途な想いは、それが原因で人々が堕落しているという現実を思うと切ない。
このuの歌声に惹かれて住み着いたメビウスの住人は、何かに熱狂して心の空洞を埋めようとする現代のオタクそのものであり、自分の中にないものを心の柱として生きている人間の構造をかなり直接的に表現している。メビウスでは現実の自分の記憶がなくなって理想の姿になるというのも、ネットを比喩したものだろう。
現代病理に深く踏み込んだこの設定によって、ありきたりなトラウマストーリーにリアリティが宿っている。迫真性がある。この世界観は、このゲーム最大の魅力だ。
しかし、単にウジウジしてるだけの話ではない。主人公たちは、たとえ苦しくても、バーチャルが幸せの世界でも、辛い現実に帰ろうとする。この前向きな姿勢がとても良い。初めは何故現実に帰りたいのか明かされないが、キャラクター毎のストーリーを進めていくと、彼らの想いが伝わってくる。最後の展開は正直生温いが、心の柱ではなく、心の支えとして見守るという、ちょうど良い距離感に収まった終わり方は、このゲームのテーマに対するとても良い解答。
「理想(きみ)を壊して、現実(じごく)に帰る」というカリギュラのキャッチコピーは、なるほど、現代病理を痛烈に風刺しているだけでなく、破滅に導いていることも知らず一途に人々を救おうとするuの悲哀と、主人公たちの葛藤と前向きな意志が伝わってくる、痛烈なメッセージだ。
ただし、メビウスのルールがいまいち定まってないのと、あんまり理想の世界な感じが伝わって来ないのはマイナス。最初の数時間はメビウスの世界をそれとなく表現した日常中心のパートを入れて良かったと思うけどね。徐々に、あれ、この世界おかしいんじゃね?とミステリー的な引きにも出来るし。まぁ予算がなかったんだろうなぁ。イベント作るのは一番金かかりそうだし。
uというボーカロイドを象徴としているだけあって、音楽はネットで人気の音楽クリエイターに作らせている。この歌詞がまたとても自己中心的だし自意識過剰だし願望の塊なのだが、これはゲームの性格を的確に表していて素晴らしい。フィールドを歩いているときはBGMのみだが、戦闘に入るとボーカルが入り、ボス戦ではリミックスになるという演出はかなり盛り上がる。
いやぁ、単なるキャラ萌え学園ジュブナイルじゃなかった。これは学園ジュブナイルだからこそできるストーリーだ。ストーリーを中心にかなりしっかりと作り込まれており、何かが伝わるものを世に出そうという姿勢が見て取れる。戦闘システムも意欲的で、新規タイトルらしい粗さと勢いがある。
コンシューマのゲームが売れないこの時代に、ここまで面倒くさいゲームバランスで、分かりにくいゲームシステムで、見たくないものを見せてくるシナリオで、ゲームを作ってくるフリューのチャレンジスピリッツは凄い。
ペルソナに似てるから気になるなぁという人は、確かに学園ジュブナイルと言うジャンルは同じだけど、ペルソナがリア充モテモテハーレム学園ライフを送るストーリーなのに対し、カリギュラはメインキャラが便所飯したり中年ニートだったりするゲームなので注意してね。
コメント
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メビウスという世界をもう少し丁寧に描写してほしかったです