任天堂の信念




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WIIU。オンライン対戦メインのアクションゲーム。開発は任天堂。

任天堂のゲームは、分かりやすい。
動かし方が分かりやすい操作性。動作と結果が一致している分かりやすいアクション。ここ工夫して下さいよーという発信が分かりやすく伝わって来るギミック。画面情報が一目で把握できる分かりやすい映像。
分かりやすいから、深く考えなくても何をすべきか、また自分が何をしているのか、すんなり伝わって来る。普通ならある程度慣れて把握しないと生まれないゲームとの一体感が、任天堂のゲームは、ゲームを始めたその瞬間から存在する。キャラを動かしているだけでも楽しいというのはそういう事だ。
だから、失敗しても大して気にならない。動かしているだけで楽しいから。攻略する、とは別の部分に楽しさがあるから失敗してももっと頑張ろうという気になる。
そうしてる間にどんどんプレイヤースキルが上がる。スキルが上がると、分かりやすいだけでなく、自分で思ったように動けるようになる。そして、もっと楽しくなる。このサイクルの形成が、任天堂は抜群に上手い。
今作のスプラトゥーンは、まさしく任天堂マジックが炸裂した、実に任天堂らしいゲームだ。

まず、このゲームは目的が分かりやすい。如何に相手よりも自陣の色でエリアを塗り潰すか。ただそれだけ。
とりあえずはただひたすらインクを塗ってればOK。0キル20デスのような戦績になっても全然問題ない。大事なのは塗る事だ。ただ塗ってるだけでチームに貢献できる。
更に、そのインクアクションがまたとても分かりやすい。ただR2ボタンを押すだけ。それだけで武器からインクが噴出され壁や床にぶちまけられる。
自分が何をすべきか、そして何をしているのかすぐに分かる、このゲームのルールと画面の情報と操作性の一体感は凄い。
しかもインクアクションがまた分かりやすく気持ち良い。インクをぶちまける快感と、壁や地面を色で塗り潰していく快感、二重の爽快感がある。
その行為を繰り返してるだけでチームのポイントになるのだからこれほど分かりやすく楽しさが伝わって来るものはない。
このゲームは、オンライン対戦ゲームの最大のネックである、下手くそだから楽しめない、と言うのが一切無い。勝敗もキルデスも気にならない。もうただひたすら、動かしているだけで面白い。
実に任天堂らしい、誰もが親しみやすい敷居の低さを実現している。

もちろん、対戦ゲームなので勝ち負けも大事な要素だ。バトルの駆け引き、という意味でもこのゲームは奥深い。敵との撃ち合いや効率の良い動き方など、勝つ為にはテクニックを求められる。ただ適当に塗ってれば勝てるようなゲームではない。
特に大きいのがイカ変身の要素。自陣の色で塗られている部分にはイカに変身して潜ったり高速移動したりすることが出来る。隠れて奇襲したり撃ち合いの途中で死角に回り込んだりと言った対人テクニックや、ルート構築など、活用の幅は様々。プレイヤースキルの向上に応えるだけの奥深さを生んでいる。上手くなることでもっと楽しくなるわけだ。

で、もっと高みを目指したいという人のために用意されているのが、ガチマッチ。
ただ塗るだけで良かったナワバリバトルとは打って変わり、ガチマッチのルールは明確に目標が決められているので目的を意識して動かなければならず、どこから攻めれば良いかとか、敵の裏を突こうとか、効果的な戦いを突き詰める必要がある。
目的を仲間と共有してるから自然と役割分担やチームプレイが生まれるし、洗練された戦い方が重要だ。かなりシビアなレート要素もあり、やりがいのあるものになっている。
レートの仕組みが達成感あるので、初めは何でガチマッチにナワバリバトルがないんだよと思ったが、よく考えたらナワバリはガチで遊ばなくても大丈夫である事に意義があるルールだもんな。あのルールに本気にならざるを得ない要素を取り入れたら、全てが崩れちゃうか。
勝つ事を意識して遊ぶ事が出来るガチマッチと、深く考えずに遊べるナワバリバトルとで明確に遊びの方向性が分けられているから、自分のスタイルに合わせることができる。この配慮は素晴らしい。

特筆すべきが、オンライン回り。
とりあえず、試合開始のサイクルが恐ろしく速い。大体のシューティングマルチは、マッチング毎に装備の入れ替えやステージの投票などを行う猶予が与えられるが、このゲームにはそれが無い。人数が揃った時点ですぐ試合が始まる。一度ルームに入ると任意では抜けられないから人もすぐ揃う。わざわざ部屋を抜けないとカスタマイズを弄れないのは不便であるが、このマッチングサイクルの速さには変えられない。試合時間が短い以上にマッチングで手間取る時間が少ないから本当に手軽に遊べる。
次に、ライブ感がある。定期的にコンテンツが配信されるから常に新鮮な気分で遊ぶ事ができる。電源を付ける度にイカちゃんDJによるニュースが流れ、新しい武器やステージの解禁の報告をしてくれるのも良い。コンテンツの配信を無機質なものにせず世界観を壊さないよう演出してくれるから、徐々に世界が広がっていく感覚があった。
ちなみに、イカちゃんDJの主な仕事は現在のステージ報告にある。このゲームのステージやガチマッチのルールは、4時間毎の周回制で、ランダムに選出されたものの中からしか遊べない。
また、特定のお題に対して2つの派閥に別れて争うフェスと呼ばれるイベントが定期的に行われるのだが、この間はガチマッチが選べなくなり、ナワバリバトルしか遊べなくなる。はっきり言って、これらの仕様はかなり面倒くさい。せっかく起動したのに、新しいステージやルールで遊べない、という事がザラにある。
更に言えば、テキストチャットやボイスチャットも排除されており、濃密なコミュニケーションを取るという遊び方は封じられている。また、ガチマッチはフレンドと一緒に遊ぶ事も出来ないし(これは8月の大型アップデートで出来るようになるらしい)、対戦ゲームのモチベーションである、対戦成績の記録もされない。要するにオンラインはガチガチに任天堂にコントロールされており、自由に遊ばせてくれない。
正直どうかと思う部分もあるが、任天堂からしてみれば、ゆとりを持ってゆったり遊んで欲しい、という事なのだろう。確かに、オンライン対戦のゲームはどうしてもせっかちになりがちだ。勝つ事に囚われて、ゲームを純粋に楽しもうという気持ちが薄れやすい。任天堂がオンラインに否定的だったのもそこが原因だろう。分かりやすい楽しさを何よりも大事にしている任天堂にとって、勝利至上主義になりがちなオンラインの世界は相容れぬものだったはずだ。
しかしオンラインは、人との本気のバトルが出来るから楽しいというのは勿論あるが、そもそもは、人と人が触れ合えるという、その感覚自体が楽しいものだ。そして任天堂は、後者を徹底的に突き詰めた。
小出しなコンテンツ。自由に選べないステージとルール。制限が多いフェス。排除されたチャット。記録されない成績。スプラトゥーンのオンラインは、確かに押し付けがましい。任天堂が想像する、理想のオンラインを実現するためにプレイヤーに対してかなり窮屈を強いている。
だけどそれは言い換えれば、任天堂の信念だ。戦うのではなく、楽しもう、その意図が一貫としている。ゲームシステム、デザイン、オンラインの環境作り。あらゆる部分が、純粋にゲームを遊ぶ事そのものを楽しもうという、任天堂の確固とした信念で構築されている。だからこそ、殺伐とした戦いの場ではなく、人と触れ合う楽しい遊び場として成立している。オンライン対戦を、遊びとして楽しむ事が出来る。

今になって、オンライン対戦をここまで掛け値なしに楽しめる日が来るとは思わなかった。面倒くさい仕様が多いので対戦を求める人にはあまり向かないが、オンラインを気楽に楽しみたい人にとってはこれほど適したゲームはない。ゲームを遊ぶという行為自体から純粋に楽しみを見い出そうとする、実に任天堂らしい作りだ。
スプラトゥーンには、任天堂が貫いてきたゲームへの美学が詰まっている。任天堂のゲームに対する信念が、とても良く伝わって来る一作だった。