薄い



image

“母親が死に、離婚した父親は行方知れずになり、9歳にして両親を失ってしまった男の子、蓮。親戚に貰われそうになるが、引越しの最中抜け出し、渋谷の街を一人彷徨い歩く。
そこでバケモノのクマテツと出会った蓮は、一人でも生きていける強さを求めて、彼が住むバケモノの世界、渋天街に辿り着く。”

細田守監督の新作。人間とバケモノの世界が交錯する世界を描いた話。
なんか、凄く唐突だった。主人公が人間界に帰る中盤以降、一気にストーリーのトピックが増えるのだが、それの収拾が上手くいってない。全部を語ろうとするあまり、かなり強引な展開になっている。登場人物達は、行動に葛藤を与えられず、話の都合で動かされてしまっている。
そもそも、人間と違う性質を持った生き物とされているバケモノの奥行きが見えない。バケモノをバケモノたらしめているものは何なのか、大事な部分が全く伝わって来ない。異形な生物との交流を描いておきながらそれらに魅力が感じられないのは厳しい。バケモノと人間の違いから、人間の性質を抉り出そうという狙いが多分に含まれている話であるが、バケモノの造形が浅いからメッセージが謙虚に伝わって来ず、押し付けがましく感じられてしまう。人間の心の闇を、一方的に悪だと決め付けてしまっているのが何とも薄っぺらい。
勿体無いよなぁ。主人公と似たような境遇のキーパーソンがいて、こいつと主人公を対比させながら物語を構築すれば、人間の光の一面と闇の一面が浮き彫りになって自然にメッセージとして溶け込んだだろうし、クライマックスの対決もライバルという関係が強調されて盛り上がるだろうに。明らかに人間界のパートで登場するヒロインは上手く話に入り込んでおらず付け足し感が強いので、この部分をカットしてそっちに尺を回すべきだったと思うね。

面白い部分もある。主人公の師匠となるバケモノのクマテツの不器用でワガママで一途なキャラクターは、一人で生きてきた事の硬さを描いてるのと同時に、足りない部分も滲み出ており、直接説明されなくても彼の生き様がダイレクトに伝わって来た。
同じく孤独に生きる主人公と、不器用ながらも絆を作り、足りない部分を互いに埋め合わせ、一人では決して出せなかった力を発揮する、という展開は、ベタながらも熱いものが込み上げてくる。
だからこそ、ますますヒロインがいらないんだよなぁ。最後の戦いも、ヒロインがいない方が孤独感が前振りとして効いて、そのあとの展開がより感動的になったと思うんだけどね。

どうにも詰め込みすぎな映画だった。一人じゃないから強くなれる、というメッセージのポイントはハッキリしてるのに、こねくり回し過ぎたね。
サマーウォーズと言い、おおかみこどもと言い、最近の細田監督の映画は大衆に向けた作りが良い意味で爽やかさを生んでいたが、今回は悪い方向に転がってしまった感がある。本作も細田監督らしい爽やかな感動が詰め込まれてはいるが、とにかく唐突で薄っぺらい。
凡作。