本気



2015-01-16-00-56-45


この前久しぶりにパソコンから自分のブログを見たら全面グレーで雰囲気が暗く、こんな陰気なテンプレートを今まで使っていたのかと驚いた(スマホとPCではデザインテンプレートが違う)ただでさえ画像を殆ど使わないから殺風景なのにそれに加えてこのグレーなデザインは重々しい。近寄り難いし、何か言ったら噛み付かれそうな空気がある。そうか、だからいまいち反応が薄いのかもしれない。
よし、そうと分かったらイメチェンだ。もっと明るめにいこう。基本的に俺のブログはポジティブ思考で書いてるつもりだしな。ゲームのまな板は誰でもウェルカム!

と言うわけで、早速デザインを取っ替え引っ替えして色々試すが、中々しっくりくるものがない。デザインは良いけど一行が長くて読みにくかったり、インターフェースは優れてるけどデザインが微妙だったりと、あちらを立てればこちらが立たずという感じで、俺の需要を満たしてくれるものが中々見つからない。テンプレート探しも人生と同じで妥協を強いられるのかと苦悩する。
それにしてもさっきから下の階が騒々しい。ガチャーンガチャーンと何かがぶつかり合う音がひっきりなしに聞こえる。まるでさっさと妥協しろと言わんばかりだ。人には譲れないものがあるんだから黙ってろよと思いながら無視するも止む気配がない。何かがおかしい。
この音は馴染みのものではある。トイレの扉が響かす音だ。しかしここまでその音が連続するのは異常だ。開けて、閉める。この手順だけで作業は完了するはず。
何かあったのか?流石に気になったので見に行く。父親がトイレの前で誰かに話しかけていた。トイレから声が返ってくる。弟の声だ。その会話の内容から察するに、どうやらトイレのドアが開かなくて閉じ込められたらしい。俺は吹き出さずにはいられなかった。

ドアノブをガチャガチャしてみる。空回るだけで手応えなし。押しても引いてもビクともしない。
ここでようやく実感した。弟は本当にトイレに閉じ込められていて、一生酒の席で肴にできるネタを手に入れたのだと。羨ましいぞおい。
しかし本人はそれどころじゃないようで、必死にドアノブをガチャガチャしては扉を叩いている。
まぁまぁ落ち着けって。こんなの鍵穴からドライバー突っ込めば大抵直るようになってるんだから。意気揚々とマイナスドライバーを鍵穴に差し込んでグルグルかき回す。右にグルグルグル。左にグルグルグル。左右にグルグルグル。
いや、グルグル回りすぎだ。鍵が引っかかってるだけならどこかで手応えがあると思うんだが。どうやら問題はそこじゃないらしい。
次にドアの隙間に着目する。ここから何か挟み込んで引っかかりを外すことはできないか。と思うも隙間から挿入しようとした下敷きがあっさりくの字に折り曲げられたのを見て断念する。
お次はドアノブをガチャガチャしまくる。どうせ機能しないんだからとりあえずドアノブを外してしまおうという寸法である。恐らく接着面の裏側に鍵やラッチボルト(ドアノブを回した時に出たり引っ込んだりするやつ)を動かす枠組みがあるはず。しかしドアノブにはネジで締めたあとがない。頼れるのは己の力のみ。俺は脱臼が癒えたばかりなので父親にその大役を任せた。
暫くの間、ただただ切なくなる光景を眺めていた。父の力が全くの無力で終わっている。心なしか背中が小さく見える。これで俺があっさり外しちゃったらあの人のプライドは大丈夫かなとちょっと心配になるが、そうも言ってられない。交代し、俺はクレイトスの如くドアノブを握り締めた。
心配は全くの杞憂に終わった。全くビクともしない。ドアノブは恐ろしいほどの執着心でドアにこびり付いていた。ドアとノブの間に何かしらの絆が芽生えてるのではないかと思うほどの接着具合。破壊神クレイトスに神依した俺すらも上回るとは。
万策尽き果てた。もはや打つ手がない。諦めが早すぎるように思われるかもしれないが、想像以上にトイレのドアは堅牢なんだ。いや本当に。俺たちに与えられたカードは僅かしかなかった。
途方に暮れていたところ、閉じ込められている弟が最後の手段を言い放った。

「ちょっと離れてて。ドアをぶち破るから」

!?!!

俺がそのプランを一瞬でも想像しなかったと言えば嘘になる。毎週のように名探偵コナンで小五郎が容赦なくドアをぶち壊しているシーンを刮目してきたのだから、むしろこのシチュエーションを見たとき真っ先にそのアイディアが頭に浮かんだ。しかし常識の概念に阻まれて口に出せずにいた。言い換えればそれは、100%無謀であると分かっていた。アニメではないのだ。ドアはあんなにか弱く出来てはいないのだ。
しかし弟は本気だ。人は追い詰められると規格外になれるらしい。
父もこの際だから仕方ないとドア破壊にゴーサインを出す。おいおいマジかよと内心思うが俺も弟の本気を感じ取ったので何も言わない。万が一のために俺と父はドアから距離を置いた。緊張が走る。まさか生で見られる日が来るとは。

がツン。がツン。ガツン。

ビクともしない扉。振動と音だけが虚しく辺りに響く。厚すぎる。現実の壁はあまりにも厚すぎる。助走のない弟の捨て鉢な体当たりでは打ち破れるはずがないのだ。現実から目を背けてはいけないのだ。

結局自力でなんとかするのは諦めて鍵屋さんを呼ぶというこの事態にあるべき答えに帰結した。鍵屋さんが来るまでに2時間くらいかかるとのことなので、それまでの間ネットで鍵を開ける方法でも調べてやるか。
へー、トイレに閉じ込められた人って結構いるんだな。中には一週間近く閉じ込められて瀕死の状態で発見された人もいるらしい。確かに一人暮らしだと笑い事じゃ済まないよなぁ。斧装備しといていつでもシャイニングできるように備えといた方が良いのかも知れない。
それにしてもトイレに閉じ込められた人の体験談が面白い。どの人も語り口がやたらに軽妙で不謹慎ではあるが思わず笑ってしまう。トイレに閉じ込められるとユーモア知数が上がるのだろうか。
あれ、なんか忘れてる気がする。まぁいっか。大人しく鍵屋さんを待つとしよう。

再びブログのデザインについて考える。うーん、とりあえずは妥協してこのクラフトペーパーってやつにしとくか。デザインは前と比べると雰囲気明るいし、改行をあまりしない俺としては一行が短めになっているのも都合が良い。一定の需要は満たしている。
本当は記事タイトルの下に画像が載るようにしたかったんだよね。今のままだと寂しすぎるからね。でもその機能が付いてるテンプレートはほぼ有料会員限定なんだよね。まぁ前文に画像貼ってたら済む話なんだけど、殆どは本文に貼り付けてるんだよね。多分300記事くらい。今更全て貼り替えるなんて面倒なこと絶対したくないんだよね。
一方、スマホのテンプレートにはデフォルトでタイトル一覧に画像が表示できる機能があることを後に知る。試しにやってみたが、画像がない記事にはno imageというプリントが挿入されて何か締まりがない。うーん、これ何とかならないのか。
あー、こんなことなら毎記事一枚は画像ペタしとくんだったなぁ。画像なんかよりも俺を見てくれ!という思いを引きずって今まで最低限しか貼って来なかったけど、殺風景で文章ばかりだと余計読んでくれないから本末転倒だよな。
しかも此の期に及んで俺のプライドが画像表示機能を使うことにNOを叩きつけてやがる。今まで画像に殆ど頼らずにやってきたんだからそれを貫くべきだってさ。
はぁーいらないいらない。こんなしょうもないプライド。もっと目的に向かって貪欲になれよ。しかしこんなプライドでも俺の一部だから困る。
とは言え確かにno imageのあれは格好が悪いし、PCもこのテンプレートはあまり満足してないので、もうちょっと色々と考える必要はあるな。暫くテンプレートやレイアウトがコロコロ変わるかもしれませんが、ご容赦下さい。

ようやく鍵屋さんが来る。デザイン探しは頓挫してクゥオンタムコナンドラムの真っ最中だが、解体作業が気になるので見に行く。
あれ、なんか思ったよりも軽装だ。奥の手は車の中にあるのだろうか。
鍵屋さんの話ではトイレに閉じ込められるのは良くある案件で日常茶飯事らしい。何故か女の人よりも男の人の方が閉じ込められていることが多いという。へぇー、それはまた何でですか?

「さぁ、何でだろう」

・・・・・

鍵屋さんの作業は特に見所がないまま淡々と進んでいった。ドリルでドアノブを解体し、なんかの道具で楔となっていたラッチボルトを取り外して終わり。
弟を外界から閉ざしていたドアはついに開かれた。実に3時間ぶりの対面である。特に感情は湧いてこない。


「なぁ、本気でドア壊せると思った?」


「壊せる壊せないじゃなくて、単純に一秒でも早く出たかったんだよ」


確かにそれは、現実を知るよりももっと大切な事だな、と思った。