未来は明るい



とある都合で、アドテック関西というカンファレンスに参加してきた。そこで色々な話を聞いたがその辺りは趣旨から外れるので置いておく。
俺が一番興味を惹かれたのは、あるアトラクション。ブースを見回っていた時、蒸気が噴出するような爆音が会場内に響いて、明らかに場所にそぐわない音だったのでなんだろうと思って見に行ったら、そこにはジェットコースターの乗り物のような筺体があり、中にはヘッドマウントディスプレイみたいなデバイスを被った体験者が乗り込んで揺られていた。

「只今、トレンドコースターの展示を行っております。検索ワードを入力して、その波をバーチャルで体験することができます!」

と、近くのお姉さんが説明していて、正直何を言ってるのかチンプンカンプンだったが、これってまさかVRの仕組みを使ったやつじゃないのか、と気がはやる俺。参加者の頭に付けられているヘッドマウントディスプレイを良く見るとオキュラスリフトのロゴがある。うわ、やっぱりこれVRじゃん。オキュラスリフトってSCEのモーフィアスと並んでバーチャルリアリティの分野では有名なデバイスだ。まさかゲームとは殆ど関係ないこの場所でこんな代物にお目にかかれるとは。これは絶対に体験しなくてはならない。
という俺の熱意をよそに、列は大したことなかった。ほんの数人が並んでいるだけ。信じられない。こんな良いものが目の前にあるのに何でみんな見向きもしないんだよ。まぁ俺にとっては好都合だけどさ。
並んでる間に広報の人と話して、これってVRの仕組みを使ってるんですよね?と聞いたら、VRとはちょっと違うと言われる。どちらかと言うとヘッドマウントディスプレイに近いらしい。ってことは360度の世界の中に入れるのではなく、スクリーンが眼前に置かれてるだけ?
えー、でもオキュラスってVR専用のデバイスじゃなかったけ、と思うが、違うと言うのだから違うのだろう。俺もオキュラスについてあまり知らないのでよく分からない。でもなんだ、シアター感覚で体験できるだけなのか。なんかガッカリだな。
自分の番が回ってきたので気を取り直す。初めに好きなワードを入力してくれと言われる。そのワードのネット上での反応の波がジェットコースターのレールを作るらしい。波が大きい方が目まぐるしいレールとなるので反響のあるワードが好ましいと言われる。
もちろん、どんなワードにするか俺の心は決まっている。えーと、ファイナルファンタジー、っと。これほど反響のある単語を俺は他に知らない。
しかし、次の瞬間信じられない言葉が返ってくる。

「あー、波が平坦ですねー。違うやつにしてください」

う、う、うそだ!FFが反響ないなんてそんなの絶対嘘だ!!俺は認めないぞ!!!
そうか、良く考えたらわざわざネットでファイナルファンタジーなんて長い言葉一々使わないよな。俺だって毎回FFと略している。FFって入力すればちゃんとした結果になるはずだ。

「あー、やっぱり平坦ですねー。オススメは、adidasって単語で〜これにして貰えれば特典も〜」

と言う、係りの人の言葉は俺の耳に入らない。
反響がないFFなんて、FFじゃない。リスクのないものから驚きは生まれない。だけど、FFは常に失敗を恐れずチャレンジし続けてきた。良くも悪くもユーザーの期待を裏切り、驚きを与えてくれた。故にユーザーからの反応は強かった。
もう何回も言ってるが、FFはスタッフのエゴが極めて強く現れたシリーズだ。ストーリーを見せたい!このシステムを押したい!キャラクターを魅せたい!そんなスタッフの意思を通すためには、RPGとしての体裁とか、シリーズの伝統とか、ユーザーの需要など、容赦なく切り捨てる。新規タイトルならまだしも、シリーズ作品で、しかも何十億と金かけて何百万のユーザーが手に取るフランチャイズで、ここまでユーザーの事を省みずにスタッフが好き勝手に作っているシリーズを俺は他に知らない。
FF13とか本当に典型的だった。ストーリーとキャラクターを見せるために一本道にして、システムの存在を高めるために難易度をキツくして育成の幅もなくして、と、当時オブリビオンの影響でRPGに大事なのはとにかく自由度だ!という風潮が強い中で、ものの見事にそれとは真逆の方向性を打ち出してみせた。自由度どころか、RPGとして最低限求められる遊びの幅すらFF13にはなかった。とにかく、ストーリーとキャラクターとシステムを見せる、その一点に特化したゲーム内容だった。国民的と言われるフランチャイズのナンバリングを使ってここまで空気を読めない作品が良く作れたものだ。
発売当時、FF13はめちゃくちゃ叩かれた。それはもう凄まじい叩かれ方だった。一本道だの、ムービーゲーだの、ストーリーが酷いだの、大体は事実だが酷い言われようだった。大してゲームに詳しくない知人でさえ、FF13は一本道で〜としたり顔で語っていたのを良く覚えてる。
当時からFF信者だった俺は良い気分ではなかった。だけど同時に、不思議な感覚にも陥った。バグやフリーズや処理落ちとか、そういった技術的な問題ではなく、純粋なゲームの内容でここまで反響を起こすなんて、それはとても凄いことだと思った。
日本市場は、ポケモンやマリオやモンハンやドラクエなど、映像の優先順位が低く、ユーザービリティなゲームシステムで、無難なゲームデザインと言った、安定した作りのシリーズの存在感が強い。いつも通りの面白さがあり安心して楽しめるが、マンネリなのは否めず、技術的にも目を見張るところは乏しいので驚きは少ない。だからゲームの内容が話題になることなんて殆どない。
また、どんどんモバイル化が進んでお手軽思考が強まり、クオリティや没入度よりも手軽さにプライオリティーが置かれ、プレイヤーを集中してゲームに臨ませる据え置き機の存在感はどんどん薄まっている。
その中にあってFFは異質だ。ミリオン以上売れるシリーズは大半が保守的でお手軽さに力を入れているのに、唯一FFだけは、それらとは逆行した作り方を続けている。
ハイクオリティな映像、斬新なゲームシステム、毎回作風をガラッと変えるチャレンジスピリッツ。そしてユーザーが真剣にゲームに向き合わざるを得ない据え置き機での展開。リスクを恐れず、ユーザーに媚びず、普通の枠には収まらない、凄いものを作ろうとし続けている。作り手の凄まじい気概が感じられる。
ニーズから外れたやり方だが、FFは未だにナンバリングは200万近い売り上げを誇っている。新しい事に挑戦しても、スタッフのパッションさえ込められていれば、ユーザーは付いて来てくれるということを示している。据え置き機の前にユーザーを座らせて、真剣にゲームに取り組ませるだけのパワーを持っている。
無難なゲームばかりにならないためにも、これ以上技術力で世界に離されないためにも、据え置き機でゲームをする文化を根絶やさないためにも、FFは売れ続けなければならないし、最先端の技術を追求し続けなければならないし、挑戦し続けなければならない。FFの背負っているものは大きい。
挑戦をテーマにしているFFにおいて最も恐ろしいのは、無関心にさらされることだ。こんなの良かった時のFFとは違う!クソ!と批判されることはある意味FFの術中であり、そういうエネルギッシュな反応があるからこそナンバリングが出る度に良くも悪くもブームが巻き起こって売り上げに繋がっていると思うが、新しい事にチャレンジしても、ふーん凄いね、という反応で終わってしまうのが一番怖い。そういうユーザーしかいなくなってしまったら、ゲームは何も挑戦できなくなる。

ようやく話は戻るが、故に、波が平坦だと言われた時はショックだった。
最近はFF15の最新情報もあった。あの異質な世界観。日本のゲームでは群を抜く映像クオリティとスケール。男くさいキャラクター達。ゲームに少しでも興味があれば、FFとか関係なしに嫌でも目に付くはずだ。それともああいうリスクを省みずに作られた大作に日本のユーザーは本当に興味をなくしたのか?ゲームは単なる暇つぶしの道具でしかないということなのか?
いや、そんなはずはない。日本にもまだまだ根強いゲームユーザーがいるはずだ。今はまだ影を潜めているだけで、少し流れが変われば、またゲームに関心を抱いてくれるはずだ。
と、言うことを走馬灯のように思い巡らせていたら、係りの人が、

「あ、言い忘れていましたが、直近一ヶ月の反応なので、最近話題になったワードが良いと思いますね。錦織選手とか」

なーーーーんだ。最近一ヶ月の話か。確かに最近のFFはスマホの新作が発表されたくらいで大した情報はない。そりゃ一ヶ月内ならこんなものだろう。あー、良かった。
じゃあ検索ワードはさっき言ってたadidasで。なんか貰えるらしいし。

ヘッドディスプレイを頭に被った瞬間、衝撃が走る。おかしい、俺が聞いたのはヘッドマウントディスプレイのようなシアター感覚という話だったはずだ。ところが始まってみると、視野の全てがバーチャルの世界で埋められてしまっている。それだけではない。頭をどこまで動かしても全く隙間なく映像が広がっている。広報の人は違うと言ってたがこれってVRじゃないのか?定義は知らないが、完全に俺はその世界の中に入り込んでいた。臨場感なんてちゃちなんもんじゃない。本当に自分がそこにいる。これは凄すぎる。
世界に酔いしれていたら、急に乗り物が動き始めた。目の前にはジェットコースターのレールが敷かれ、行き先はそれに委ねるしかない。
最初はなだらかだったが、段々スピードが上がり、レールの勾配も激しくなり、あまりの勢いに、思わず身体の前にある取っ手を掴んだ。現実に乗っている筺体はただ揺れているだけなのに、本当にジェットコースターに乗っているかのようなスピード感がある。取っ手を離したら落っこっちてしまいそうだ。
夢のような体験はあっという間に終わり、降りたあとも、揺られた反動でしばらく足がおぼつかなかった。それ以前に、あまりにさっきの体験が衝撃的すぎて、放心状態だった。バーチャルリアルについては懐疑的だったが、一瞬で考えは変わった。これは間違いなく凄いものが作れる。想像以上の臨場感だ。
今、SCEがVRデバイスのモーフィアスを開発中だが、もしかしたからこれはもう一度据え置き機にユーザーの目を向かせる事ができるかもしれない。それぐらいの可能性を感じた。本当に凄い体験だった。アドテック関西ありがとうと言いたい。たとえ一つしかコンテンツがなかったとしてもモーフィアスは買うと決心した。いやー、VR、ひいてはゲームの未来が楽しみだ。

その帰りにコンビニに立ち寄ってファミ通を読む。最初らへんのページはPS20周年を記念して色んなクリエイターのインタビューが組まれているが、読むのは面倒なので飛ばしまくる。
いや、飛ばせないものが一つあった。スクウェアエニックスの現社長、松田氏のインタビューである。

「ドラゴンクエスト、ファイナルファンタジー以外の有力IPの新作を投入!!」

と、こんな見出しがデカデカと載っていたら、嫌でも読まざるを得ない。まぁでもどうせスマホ向けなんだろうなぁ。
という俺の言葉を受け手の浜村氏が代弁してくれているが、松田氏によると、どうやら家庭用ゲーム機で作っているらしい。しかもRPG。しかもリメイクでなく新作。しかも一人で遊ぶ系と言ってるので恐らくオフライン。
ま、マジか。FFドラクエ以外の有力IPの新作か。恐らくキングダムハーツでもないだろう。見た感じ、かつては人気があったが最近は埋もれていたタイトル、という風に聞こえる。その条件で思い浮かぶのは、聖剣伝説、クロノシリーズ、サガシリーズ、スターオーシャン、ヴァルキリープロファイル、パラサイトイヴ・・・まぁ色々あるな。
これはもしかして、かねてから噂されてた、サガシリーズの新作が本当に来るのか。シリーズの代表的存在である河津氏が色々仄めかしてるらしいし、大手ゲームメディアを使ったアンケートもやってるし、ちょうど今年で25周年。そして今回の松田氏の発言。ここまで揃っていて何にもありませんでしたーはないだろう。
その家庭用向けの有力IP新作とやらは今年の12月に発表するらしいが、どうやら一作だけでなく、他にも色々と用意しているらしい。もちろんスマホやPC用の発表も含まれているとのこと。
いやー最近のスクエニは楽しませてくれるなぁ。FF15・キングダムハーツの次世代機特化、ドラクエのアクションゲーム化、コンシューマ向けRPG専用の会社立ち上げ、ルミナスエンジン。ライトニングリターンズは最高のFFだったし、海外スタジオはクオリティと面白さを兼ね備えたゲームを連発している。そして今回の新作ラッシュ発言。
スクエニの業績が回復した要因はFF14とソーシャルゲーム事業なので、一部を除いてそこに絞っていくのかと思いきや、同じくらいコンシューマにも力を入れ始めてくれた。ソーシャルやオンラインでお金を稼いで、コンシューマに注ぎ込むという、理想的な事をやってくれている。確かにスマートフォンゲームの比率が大きいのは事実だが、時代の流れがスマホに集中している以上は避けられない事だし、両輪が揃って安定した経営が続かなければゲームは作れないのだから、これが当たり前の方針。これからもどんどんスマホでゲームを作って儲けて、コンシューマでスクエニの強みを発揮して欲しい。
それにしても松田氏は結構良いことを言ってる。クリエイターの個性がゲームに現れていることが大事とか、作り手は作る事だけに集中すれば良いとか。また別の記事ではあるが、オンラインやスマートフォンが主流となっている現状でもスクエニの強みは一人でガッツリと遊ぶRPG系であると明言していた。
前任の和田氏はルミナスエンジンの開発にGOサインを出したり大作洋ゲーの指揮を取ったりとコンシューマに力を入れていた人だけに、彼が社長業を引かされた時は、スクエニはそっちの道を歩むのかと酷く落ち込んだが、松田氏はスクエニの理念と強みをとても良く理解しそれを実践しているようで安心した。数年前までは失望しかなかったが、これからのスクエニは大いに期待が持てる。

キングダムハーツ2やっと終わった。やっぱりロクサスのバトルとその後のムービーは結構来るな。
ロクサスが自分は抜け殻でしかないと察する場面と、心がないはずなのに涙が流れたアクセルとの別れのシーンは、分かっていてもグッときた。