ホラーが空回り



2014-11-06-02-08-32


PS4、PS3、XboxOne、Xbox360。開発はタンゴソフトワークス。
バイオハザードの生みの親である三上氏が手掛けるサバイバルホラーの新作。

三上氏のゲーム作りの特徴と言えば緻密に計算されたゲームデザインとゲームバランスであり、例えば初代バイオハザードは、わざとキャラクターの動きをラジコン操作と呼ばれる操作性でもどかしくして、敵との戦闘を避けにくくした上で銃以外の武器は極端に弱く調整し、銃に関しても弾薬の数をギリギリにすることで、常に緊張感が抜けない、サバイバルとしてのホラーを醸し出させていた。そのゲーム性にあって、ジリジリとにじり寄ってきてねちっこいけど倒される時はあっさりという、ゾンビのキャラクターがものの見事に当てはまっていたわけだ。
例えばバイオハザード4。カメラはビハインドから映され銃の照準もロックオン式から手動式へ移行し、いわゆるTPSシューターとなり、旧来のバイオから大きくモデルチェンジした。
だが、銃を構えている間は動けず、加えて俯瞰視点だった過去バイオより視界も狭く、ジリジリとにじり寄ってくる敵との攻防やどこから現れいつ囲まれるか分からない死角の多さから緊張感を生み出し、見事にアクション的なホラーを作り上げていた。
更にキモとなるのが体術。敵の部位を狙い撃って怯ませる事で発動できるのだが、これはアクションにメリハリを作っているだけではなく、弾薬の節約にも繋がりバイオの魅力であった「多くないアイテムを如何にやり繰りして使うか」というサバイバル性に寄与されている。しかも、部位を狙い撃つということで、じっくりと敵と向かいあって撃たなければならないバイオ4の仕様と恐ろしく合致。シューターとしてはもどかしいバイオ4の操作性に意味を見出している。
緊張感のあるシューティング、メリハリのある体術アクション、そしてサバイバル。過去バイオから180度方向転換しながらもシリーズの魅力を余すところなく引き出し、それぞれの要素が相乗効果を生み出している、計算し尽くされたゲームデザイン。バイオハザード4が傑作となったのも当然の話だ。

要するに三上氏は、雰囲気や演出だけに頼ってホラーゲームを作っているのではない。ゲームデザインの方面からホラーを追求しようとしている。それはサイコブレイクも例外ではない。今作のゲームデザインもかなり計算されて作られていた。
まず、弾薬が足りない。圧倒的に足りない。弾のマネジメントを求められるゲームは何だかんだ言って手持ちが少なくなると補整が働いてどっかに弾が落ちてることが多いので行き詰まることは少ないが、このゲームは適当にやってるとガチで手ぶらになります。本気のサバイバルです。何度もアイテムが尽き果ててどうしようもなくなった。
じゃあどうするのかと言うと逃げるしかない。アクションゲームは雑魚を一体も残さず倒したくなるものだがこのゲームは巧みなもので、序盤に雑魚の大群が現れて逃げないと絶対に突破できないような展開が起こる。ここでプレイヤーは、逃げるという選択肢があることを頭に刷り込まれるわけだ。
では、ただ逃げていれば良いのかと言うとそうでもない。何故ならあちらこちらに罠が張られているから。なにも考えずに走っているとトラバサミやセンサー爆弾の餌食となる。
ここでミソとなってくるのが屈み腰移動。屈み腰状態なら罠を解除することができ、敵からも気付かれにくくなる。このゲームは案外ステルス的な側面も強く、ステルスキルしたり、箪笥に隠れたりと言った要素がある。しかしこれはあくまで戦略の一つでしかない。
シューティング、エスケープ、ステルス。様々なアプローチが用意されているが、シューティングばかりだと弾がなくなり、逃げてばかりだと罠に引っかかり、ステルスばかりだとどこかで敵に見つかって、と、一辺倒にならないよう練り込まれたゲームバランスはお見事。絶対と言える戦法はなく、常に考えながら行動しなければならない。サバイバルアクションとして見事な作りだ。
そして、この逃げる・ステルスという部分はホラーとして一時的にだが有効的に働いている。追われたり、隠れたりというのは単純に緊張感がある。この二点は序盤はかなり機能していた。
他に細かいところでは、スタミナの減少速度やアイテム画面でのスローモーション、カメラの寄り具合や銃の連射速度、手ブレ具合など、随所に三上氏らしい嫌がらせと言うか、拘りを感じる。弾薬よりも一本のマッチの方が重要なあたりとか実に彼らしいバランス調整だ。これらが絶妙に絡んでサバイバルの緊張感を高めている。とは言え、黒枠に関しては画面範囲狭すぎなので流石にどうにかして欲しいけど。

世界観も中々。精神病患者の頭の中を見事に映像化。唐突にステージが切り替わるわ、全く訳分からないところに飛ばされるわと、目まぐるしく動いて非常にペースが良い。その設定がちゃんとストーリーに繋がっているのも○。
特に拠点の作りが面白く、電気椅子で脳を刺激してスキルを上げたり、マップで見つけた鍵を使って積み上げられた金庫を開けていったりと、演出が中々凝ってる。
クリーチャーもきみ悪い。貞子やキーパーの造形は普通に怖かった。貞子が炎に弱い理由とか、意外なところで設定が練られていて、なるほどとなった。
しかしストーリーが意味不明。割とそそる展開なのだが、どうもDLCありきな伏線が多く釈然としない。テキストもかなり安易で場面に合ってない台詞が多く違和感を覚える。

そして今作の最大の注目点とも言えるホラー部分。かなり強調していたので期待していたが蓋を開けてみたら微妙すぎる結果。一番最初と貞子的なクリーチャー初登場時はそこそこ怖かったがそれくらいで、あとはホラー要素がむしろ邪魔。
完全にアクションエンターテイメントとして割り切っているバイオと違って、サイコブレイクはホラーとして頑張ろうとはしているが、そのやり方があまり好ましくなく、演出に当てはめ、ただ逃げるしかない、というやり方で怖がらせてくるためかなり窮屈。
とりあえずこの部分はアクションとしては全く面白くない。そりゃ追われる感覚は緊張感があるけど、あんまりにもそういう展開が多くて辟易とする。こういう演出重視のパートは初見はまだしも二周目以降は決まったパターンをなぞるだけの作業でしかないので、周回プレイをする上ではストレス極まりない。
また、序盤はマップが広くて建物も多く、逃げたり隠れたりと言った行動がホラーに繋がっていて雑魚戦も緊張感がありゲームデザインで怖がらせてくる三上氏の真骨頂という感じだったが、途中から殆ど狭いエリアばかりになったせいで、ステルスやエスケープは単調なものになりホラーとしては機能しなくなっていた。レベルデザインは一定の水準で持続していたからサバイバルアクションとしての面白さは保たれていたけどね。

ゲームデザインとバランスは相変わらず練り込まれており、やり応えは抜群。サバイバルアクションとしては非常に面白かった。
しかし、ホラーに関してはガッカリだと言わざるを得ない。アクション重視だとやっぱりこうなるのかなという感じ。これなら無理してホラーにしなくても良かった。おかげでつまらないパートが多くムラがある。
バイオみたいになんちゃってホラーアクションとして割り切った方が洗練された作りになって楽しめた気がするが、本作の意義はあくまでも、バイオタイプのサバイバルアクションでホラーに挑戦する、というものなので、完成度を犠牲にしてでも、その方向性に挑みたかったのだろう。
その気概は評価したいが、ホラーに関しては空回りだと言わざるを得ない。