新しいダークソウル




2014-05-16-19-42-08


PS3とXbox360のRPG。開発はフロムソフトウェア。

凄い。フロムソフトウェアは本当に凄い。ダークソウル2は、限りなく高い期待にまたしても応えた。今作も新たな挑戦とシリーズの伝統の両立を果たしてみせた、見事な出来栄えだ。
個人的に思うソウルシリーズの凄みはこの部分で、毎回新しいアプローチからシリーズの根幹を見つめ直し、焼き直しに収まらない挑戦に満ちていながら、しかし核となる部分は全くブレていない。

例えばデモンズソウル。ソウルシリーズ一作目であるデモンズは、フロムのダークファンタジーの走りであるキングスフィールドの精神を大きく受け継いでいるが、同シリーズで一貫としていた主観視点のカメラが三人称視点に変更されたことで難点だった操作性と視認性は一気に改善されることになり、とにかく遊びやすくなった。
カメラが変わったことで主観視点による臨場感と視界の狭さからくる突発的な敵の攻撃や罠というキングスのゲーム性の核である部分は失われたが、デモンズはそこを立体的で複雑なマップと徹底的に練られたレベルデザインでカバー。死角から現れる敵、初見殺しすぎる罠、タイマンに持ち込ませてくれない敵の配置など、プレイヤーの嫌がることを率先として行ってくるシリーズの伝統を忠実に守り、反射神経やボタン捌きよりも、周囲への観察眼と状況判断、そして機転がものを言う、絶妙なバランス調整を実現した。
視認性と操作性の悪さというプレイヤーのストレスになるところでバランスを取っていた部分が大きいキングズよりもデモンズは遥かにストレスフリーで理不尽を感じさせない作りであり、硬派な難易度とダークな世界観を引き継ぎながらも敷居を大きく下げることに成功。デモンズソウルは、マゾゲーダークファンタジーのポテンシャルを一気に開花させた。

例えばダークソウル。デモンズはエリア毎に小分けされていて拠点から隔離されたマップに飛ぶという形だったが、ダークソウルは全てのステージを一つのマップに詰め込み、広大でシームレスな世界観を実現。その詰め込みっぷりときたら天才的で、廃墟と化した街、暗く禍々しい森、進むことを躊躇われるジトジトした村、罠に満ちた中世の城、一転して美しく整った聖堂、神秘的でまるでアートのような湖など、儚げなものから超自然的なもの、幻想的なものまで、ファンタジーの王道をとことん付いてくるバラエティーに富んだエリアが、全く違和感なく、一つの世界として自然に繋がっている緻密さには衝撃を受けた。
様々なロケーション、凶悪なモンスター、唐突な罠、さりげない裏道、多くを語らないが確かなドラマがあるストーリー、食わせ者揃いのNPC。ファンタジーな要素がこれでもかと詰め込まれた世界での冒険は、高揚感や好奇心、恐怖など、様々な感情を掻き立てられ、素晴らしい感動に満ちていた。これほどまでに冒険している気分にさせてくれるゲームは他にない。
全てシームレスで繋がっていると移動が面倒に思うこともあるが、ショートカットが非常に練られており、ここがこんなところに繋がっていたのか!と、ショートカットを発見するたびに世界の緻密な繋がりに驚かされてしまう。
シームレスなだけあって進行の自由度も高く、常に二、三箇所以上は選択肢があり、プレイヤーごとに攻略の手順が違ってくるのも面白い。それだけの自由度がありながら、何処から進めてもギリギリの緊張感を味わえるいつもの難易度バランスを実現している事実にも驚きを隠せない。
常に死線を感じる難易度はそのままに、ダークな世界観はシームレスなフィールドにより更に際立ち、デモンズに比べると作り込みの甘さは目立つが、それを補ってあまりあるパワーと魅力に満ちた、最高のRPGだった。

フロムのダークファンタジーは常に進化を続けている。キングズフィールドでマゾゲーダークファンタジーの境地が切り開かれ、デモンズソウルでカメラを一新してグッと遊びやすくなり、ダークソウルで世界が大きくひろがった。
そして今回のダークソウル2。基本的な形はダークソウルと変わらない。今作もシームレスなフィールドは健在であり、細かい変更はあるがアクションの操作性も殆ど違いはない。今作が大きくフィーチャーされている点は、「プレイヤーの選択」だ。そしてこのアプローチは、ソウルシリーズの大きなキモである、ハードコアな難易度を良い方向に刺激している。

まず、今作はレベルが非常に上がりやすい。今までと比べると大体1.5倍のスピードでレベルが上がる。パラメータの数値自体はあまり攻略に役立たないが、武器それぞれに設定されている必要能力値を達成しやすくなったので、身に付けられる装備の幅が俄然広がったのが大きい。
振りは遅いが攻撃範囲の広い大剣、囲まれると弱いが隙が小さいレイピア、怯ませやすいメイス、遠くから攻撃できる弓、多彩な効果を持つ魔法が撃てる触媒。武器に様々な特徴があるのはいつも通りだが、前作はレベルが上がりにくかったのでよほどレベル上げをしない限り使える装備が限定されていたのに対し、今作は一周目からでも多彩な武器を選択できるようになった。更には右手、左手、アクセサリーの装備スロットも増加。装備の幅が広がり、一度に持てる数も増えたことでより幅広い戦略が取れるようになり、プレイヤーの選択はかなり深いものになっている。
その部分を更に推し進めているのが装備の耐久値。今作はとにかく武器が壊れやすく(その代わりチェックポイントの篝火を使うと耐久値は回復する)一つの強い武器でゴリ押しという戦法は通用しにくくなり、様々な武器を使う必要性が生まれた。パリィとバックスタブの使い勝手が悪くなっているのも大きい。一撃必殺に近い効果を持つこの2つの技は使い慣れると殆どこれ一辺倒になりがちだったが、無敵時間の発生が遅くなりモーション中に殴られることが増えたため、安易にゴリ押しできなくなった。
これらは悪い点として良く挙げられているが、闇雲にそのような調整がされているわけではない。ゴリ押しやワンパターンな戦略を通用しにくくすることで、場面や状況に応じたプレイヤーの判断力を強く求めているわけだ。この場面ではこの武器、この敵はこの武器、と、的確に使い分けながら進める必要性を生んでいる。これは選択肢が多い今作のテーマに極めてマッチした調整であり、コンセプトが徹底されている証明でもある。
回復アイテムの種類も多い。前作はチェックポイントで補充できるエスト瓶が主な回復要因でHPが減ったらとりあえずそれを使っとけという感じだったが、今作は輝石というアイテムが気軽に使える回復手段として存在する。輝石はエスト瓶と違って補充はできず使い捨てで回復も微量だが、動きながら使えるため隙が少ない。回復一つとっても、プレイヤーは選択肢があり、考えて行動していく必要性があるわけだ。

プレイヤーのアプローチ手段が広がった分、難易度は今まで以上に険しいことになっている。特に戦闘の難易度が高く、敵の数は多いし、中型の敵がそこら中に配置されている。
恐ろしいのは、死ぬと体力の最大値が減ってしまうこと。死ぬ度にジワジワと体力の最大値が削られ続け、最終的には半分程度まで最大値が減ってしまう。あるアイテムを使えば元に戻せるが、そのアイテムも数は限られている。今作の難易度が高い一番の原因はこれで、ただでさえ戦闘がキツいのにHPが少ない状態で挑まなければならないので非常に辛い。
前作は死んでも大したリスクがなかったため、死への恐怖が薄かった反面、気楽に死ねるという安心感があり、この部分が難しいけど何度でも挑戦したくなるソウルシリーズの魅力であった。対して今作は死に明確な意味がもたらされたことによって恐怖が増し、簡単には死ねなくなった。しかしその分、如何にして死を回避していくかという駆け引きは増し、乗り越えた時の達成感はより強くなっている。今作は徹底して慎重に進めている自分がいた。
仕掛けの発見難易度も上がっている。隠し扉や壊せる壁はもちろんとして、松明で稼働するギミック、特別な条件でしか発動しないイベントなど、様々な要素が隠されているが、かなり分かりにくいため相当注意を払わないと見つけられない。しかし一見するとこんなの無理だろ!と思うような極悪な敵やステージには、必ず何かしらの救済措置が隠されており、散々苦労させられたあと、「こんな方法があったのか!」と気付いた時の感動はひとしお。必死こいてその方法を探しても良いし、正攻法で真っ正面からぶつかり続けても良い。これもプレイヤーの選択次第だ。
そういった細かいネタがゲーム内には散りばめられており、自分の発想力と観察眼が直接ゲームを動かしているという実感があるので探索や試行錯誤が凄く楽しい。

そしてダークソウル2における最も大きな変更点は、一定数倒すと道中の雑魚が消えてしまうことにある。これにより、リトライを何度か繰り返していると同じ雑魚を倒さなくて済むようになり楽になった反面、同じ場所を行ったり来たりしてアイテムやソウルを稼ぐという稼ぎ行為はやりにくくなった。
しかし稼ぎプレイが完全に封じられたかと言えばそうではなく、チェックポイントで、あるアイテムを使うことで消えた敵を復活させることができる。ただし蘇った敵は一段階強化されるので難易度は更に上がる。
レベル上げや稼ぎ行為というゲームを楽に進める手段はちゃんと残されているが、しかしそれをするためにはリスクを求められる。そしてその選択権はプレイヤーにある。賛否両論ある仕様だが、俺はこのアイディアを高く評価したい。この仕組みを使えばボスや倒してしまったNPCも復活させられるし、二周目以降で手に入るアイテムをゲット出来たりもするので、ゲームの自由度はものすごく上がっている。
何よりこの要素は、リスクとリターンを天秤にかける選択の醍醐味が凝縮されている。ダークソウル2のテーマである「選択」を見事に現した、素晴らしいアイディアだ。

そういうわけで、プレイヤーの選択肢が増してより自由度が広がった今作は、ゲームを攻略していくという面では前作以上にやりがいのあるものに仕上がっているが、前作で一番の魅力だったフィールドに関しては残念ながら劣化していると言わざるを得ない。
とにかく残念なのが、エリア間の繋がりが弱いこと。前作は、ここがこんなところに繋がっていたのか!と、裏道や近道を発見する度に感動していたが、その感動は殆どなかった。というか裏道やショートカットが殆ど見当たらない。あってもそのマップ内で完結していて、エリア間を縦断するような大掛かりな繋ぎ道が全くなかった。前作は縦にステージを積み上げている風だったが、今作は横に横にと広げている感じ。一部分でしかワープできなかった前と違って全てのチェックポイントにワープできるようになっているので移動は楽だが、冒険している感はかなり薄れてしまった。初代は移動は大変でも自分で道を開拓している感があり、裏道や近道を発見してルートを作っていく感覚がものすごく冒険している雰囲気を高めてくれて、ここが最もダークソウルで気に入っている部分だっただけに残念。
フィールドは微妙になったが、世界観が素敵なのは相変わらず。スケール満点の城、竜が巣食っている崖だらけの道、溶岩に沈みかけている鉄の城、土で出来た塔、濃い霧に満ちた森など。今作もファンタジー満点で良い絵がいっぱいある。
ただ、グラフィックが微妙。いや相変わらず高い水準ではあるが、前作ほどのインパクトがない。トカゲ兵の鱗の質感とか、鎧の黒光りした感じとか、壁のぬめりとか、漆黒すぎる暗闇とか、拘りを感じる映像が前はたくさんあったが、今作はドラゴンくらいか。なんか気持ちのっぺりしているし、立体感があまり感じられない。

細かいところでは、ネットに繋いでいると地面に他プレイヤーの書き込みが浮かび上がって見れる、メッセージ機能がアイテム依存ではなくなり、システムレベルで組み込まれるようになった。ダークソウルの世界観の拘りは尋常でなく、前作はメッセージの仕組みですら世界観の一つとして説得力のあるものにしようとしていたが、今作は妥協したようだ。おかげでものすごい数のメッセージが浮かび上がっている。
オンラインも専用サーバーになったことで一気に繋がりやすくなった。俺は対人や協力を殆ど活用しないからあまり関係ないけど、メッセージに対する評価が貰える件数が飛躍的に増えたのは嬉しかった。評価が貰える度にHPが回復し、一時はその回復も計算に入れられるほどひっきりなしに評価が飛んできた。
当然、敵が侵入してくる割合も増したが、一周目のプレイヤーに対しては二周目以降に突入しているプレイヤーは侵入できなくなり、いわゆる初心者狩りは規制された。これは良い調整。ストレスの種が減った。
しかしロードが意外と長いのは大きなストレス。死ぬ度に20秒のロードはキツい。今作は何故かレベルアップしようとする度に拠点に戻る必要があって、往復40秒のロードだし、テンポの悪さが目立つ。

欠点は確かに多い。シリーズで魅力だった点が失われているところもある。しかし、それでも今作にしかない魅力に満ちており、保守的にならず新しいアプローチを追求していこうという気概が感じられるのは素晴らしい。それは付け焼き刃な変化でなく、難易度を根幹から見つめ直し、テーマの元に筋の通った、新しい体験を生み出している。それでいながら、ソウルシリーズらしさは失われていない。
プレイする前は、焼き直しのような内容でもダークソウルがもう一度できるだけで満足だという気分だったが、その期待を大きく上回ってくれた。前作で良かった点が薄れたのは残念だが、新しいことに挑戦するということは、何かを失うということでもある。リスクのない挑戦などありはしない。
好みで言うと前作の方が好きなのは間違いないが、今作の方向性も十二分に楽しめた。フロムソフトウェアに、拍手を送りたい。