ストーリーが全ての不満を打ち消している




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PS3のアクションRPG。開発はノラ。

昨年発売予定だったのに発売日直前になって延期し、それが伸びに伸びて結局あれから一年ほど経ってようやく最近発売されたゲーム。
開発のノラは日本一ソフトウェアの子会社であり、ディスガイアシリーズで有名な日本一としては初となる3Dゲームで相当な苦労があったのだろう。PS2レベルと言っても差し支えのない映像レベルを見るにそれが窺い知れる。
その点を誤魔化すため、常に画面をクォータビュー視点で表示しているのは見た目を良くするという意味では多いに成功している。カメラを引き離すことでモデリングとポリゴンの粗さは目立たなくなり、逆に中々センスのある背景の色合いはより際立つ格好となって、幻想的でファンタジーな絵作りを醸し出すことに成功。3Dゲームとしての体裁を保てている。
しかしこれによってゲーム性は激しく劣化。ただでさえカメラが引き離されているためキャラや敵の動きが見にくいのに、何故かオブジェクトが透過しないので木や壁に隠れて何も見えないという事が多発。一番酷いのはダメージ表示やエフェクトやスタミナゲージなどがごちゃごちゃと画面に現れて自キャラや敵を隠してしまうことで、常に画面が見にくい。まともに敵の動きを見極めてアクションを楽しむのは不可能と言っても良いほど。
そのくせやたらとシステムは詰め込まれており、敵のアクションを直前で回避してスローモーションを発動できたり、あらかじめセットできる3タイプのスタイルを場面に合わせて変更できたり、受け身から素早くボタンを入力することで確定クリティカル攻撃ができたりと、無駄にアクション性が高い。そしてそれに合わせるようにして難易度が異常に高い。
ごり押しで何とかなるゲームバランスならばこの画面の見にくさも「エフェクトが派手だからまぁいいかー」と納得できるが、まともにアクションをすることが困難に近い画面作りなのにこの難しさは頭がおかしいとしか思えない。
特に直前回避によるスローモーション発動はゲームを有利に進める上で重要な手段であるが、ごちゃごちゃした画面作りを全く考慮せずに、敵の攻撃を正確に見極めないとダメな判定になっていて、バランス調整に疑問を感じずにはいられない。しかも頑張ってスローモーションを発動したところで何故かその間も普通にダメージ判定はあるので攻撃の余波に当たって怯むだけで終わることも多く、全然チャンスタイムになっていないという意味不明さ。何故スローの間も当たり判定があるのか理解に苦しむ。
怯むと言えば、このゲームは怯みから起き上がった直後も無敵状態にならないため連続でに攻撃を受けて死ぬことが多くて本当にイライラする。実際死亡原因の殆どはこれ。
あまりに難しいからか、発売してすぐにイージーモードのパッチが配信され、俺も5章あたりで限界を感じて難易度を変更した。これによって大分マシにはなったがそれでも相変わらず難しく、難易度変更がなかったらと思うとゾッとする。これがなければ間違いなく途中で諦めていたと思うのでパッチ配信は英断。

しかしパッチではどうにもならないのが、異様に広くて面倒なフィールドマップ。
マップはロケーションごとに別れているのだが、一つ一つがむやみやたらに広く、しかもその中からレバーを探して引けとか、スイッチを探せとか、砂漠の中から米粒を見つけろみたいな感じの命令が多くて本当に面倒くさい。一つのロケーション内では同じような背景ばかり続くし、新たな発見とかもそれほどなく、探索という面での楽しみが見出しにくいのも厳しい。
どのRPGも大抵は移動が面倒に感じられるが、このゲームはその中でも特にかったるい部分を抽出してじっくり煮詰めたような熟成具合。そんなマップが何十個と用意されているのだから勘弁して欲しい。終盤のマップなんて発狂するレベル。
面白い部分もあることにはある。それがこのゲームのキモであるギガカロリーという要素。ギガカロリーはHPやスタミナの回復、未踏のマップを移動することによってどんどん減っていき、これが0になると復活できなくなったり歩くごとにHPが減ったりする。つまり、ギガカロリーはプレイヤーの生命線であり、如何にこれを節約してマップを進めていくか、というのがこのゲームの楽しみの一つになっている。恐らくこの仕組みを活かすためにマップはやたらと広いのだろう。
ピラーと呼ばれる中継地点を見つければそこからゲームをやり直せるのでごり押しで行けると言えばその通りなんだが、一回の潜りで長く活動を続ければ続けるだけそれに対する恩恵が用意されており、節約プレイを楽しめるよう誘導してくれている。ここら辺のバランス取りは中々上手い。
と、最初は思っていたが、途中からそんなことは正直どうでも良くなる。何も考えずにひたすらピラーに向かって突っ走り、ギガカロリーがヤバくなったら脱出してまたやり直す、それをひたすら繰り返していた。もう何も考える気になれない。それほどマップ移動が面倒くさいし、戦闘が画面の見にくさのせいでやる気を失うし、そして難易度が異様に高かった。いつもの俺なら間違いなく途中で投げ出している。イライラの波状攻撃により疲弊した俺は、いつこのゲームは終わるのか、まだ終わらないのか、もう違うゲームをやりたい、そんな思いに囚われて仕方なかった。
しかしそこを何とかギリギリ踏みとどまれたのは、様々な欠点を打ち消してくれるほどストーリーが面白かったから。

様々な角度からプレイヤーのモチベーションを削ってくる本作だが、ストーリーはそれを覆す強力な推進力を持っている。
容赦のないエグい演出が満載の序盤、盛り上がりを見せる中盤、感動を誘う終盤。ストーリーはかなりのボリュームを誇っているにも関わらず中だるみすることなく見所満点。主人公のメタリカを始めとしてどいつもこいつもキャラが立っているし、一人一人余すところなく見せ場が用意されている展開は素晴らしい。回想シーンの使い方も効果的で、登場人物を見事に掘り下げている。最初は演出やストーリーの都合で無理矢理当てはめられたように見えた部分も上手く補足されており、シナリオの完成度はかなり高い。
まぁ最後のお涙頂戴演出はちょっと鬱陶しくもあったけどね。ここら辺は3D技術が未熟なせいでキャラの動きや間を駆使した演出が効果的に行えない本作の弱いところで、セリフでストーリーを進めるしかないからどうしてもクドくなりがち。それでも充分感動できる仕上がりになっているのだから大したものだ。
エンディングは3種類用意されており、実質の結末となるのはバッドエンド。これを見る為にはかなり面倒な作業を行わなければならないが、頑張るだけの価値はある。と言うかバッドエンドを見るか見ないかでこのゲームの評価は大きく変わる。他の二つのオチはかなり投げっ放しな終わり方なので消化不足感しか残らないが、バッドエンドを見ることで全ては収束する。そこに至るまでの過程はとてつもなく大変で苦労が絶えないが、ゲームをクリアーした達成感とストーリーが綺麗にまとまるカタルシスの組み合わせは、何とも言えない感動に満ちていた。徒労感と充実感が一体になったこの感覚は久しぶりに味わったかもしれない。

新規タイトルらしく実に意欲的な作品でやりごたえは抜群。とてつもなく苦難に満ちているが、それに応えてくれるだけの何かがある。難しくてストーリーの面白いRPGをやりたいならこれを買わない手はない。