田舎町ののんびりした雰囲気だけはやたらと出ている




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“アメリカ北部の田舎町「グリーンベイル」で発生した猟奇殺人事件。その町は、古くから「雨のレインコート殺人鬼伝説」が語り継がれていた。
事件は第二、第三と続き、いずれも被害者の口から赤い種が発見された。事件解決のため村に出向したFBIのフランシス・ヨーク・モーガンは、事件現場に残されたその赤い種が事件の鍵を握っていると確信する。”

PS3とXbox360のアドベンチャーゲーム。開発はアクセスゲームズ。

GTAのような箱庭フィールドにバイオのTPSシステムとサイレントヒル的なクリーチャーホラーをぶっ込んだゲームで、開発元のアクセスゲームズはHDゲームを今まで作った事がないのにこりゃまた随分無茶してるなぁと思ったが、
一番作るのが大変そうな箱庭フィールドに関しては田舎町という設定が良い方向に働いており、マップがやたらと広いわりにスカスカで移動に酷く時間を取られるあたりがアメリカの無意味に広くて何もない田舎町のイメージとピッタリ当てはまり上手いことハッタリめいた部分を誤魔化しているし、山道が多くて無駄に遠回りさせられる所とか、あまり再現して欲しくない田舎町の特徴を実に良く掴んでいる。
これらはまだ序の口で、他にも田舎町ののんびりした雰囲気を出すための取り組みが数々となされており、例えば主な移動手段である車はMAX60キロしか出なくてゆっくりとドライブするようにこしらえられているし、全体図が見れない上にズームアウトもロクに使えず目的地までのルートを把握するのが困難な地図からは自分の手で迷いながらのんびり目的地まで辿り着いてくれという迷惑極まりないメッセージが伝わってくる。
案の定、これらの取り組みは雰囲気よりも先に面倒しか感じられず、目的地に移動するだけで20分近くかかる事もあって「良いよ・・・もう、雰囲気なんかどうでも良いよ・・・」と思わずにはいられなかった。箱庭らしくフィールドにはサブイベントが散りばめられているが、何一つやろうという気分にはなれない。
しかも、ここまで雰囲気を大事にしているのだからそれを徹底しているのかと思いきや、多くのNPCキャラは会話すら出来ないのでグリーンベイルの実情があまり伝わって来ず町の息吹が感じられないというチグハグっぷり。一体何がやりたいのか分からない。

雰囲気を大事にしているのかそうでないのかイマイチ良く分からないゲームであるが、サバイバルホラーパートを体験すれば、このゲームは単純に気まぐれでいい加減な作りのゲームであるということが判明する。
サバイバルホラーパートのヤケクソっぷりは凄い。敵は3種類くらいしか出て来ず、シンボル的なキャラクターであるはずのレインコートキラーは完全にギャグでしかなく、マップの中に場違いのようにアイテムがクルクル回りながら浮いていたり、拍子抜けする効果音が鳴り響いたりと、まるでホラーにする気がない潔さ。ここまでホラーの雰囲気を自らぶち壊しに来ているゲームも珍しい。
ゲームとしても、クリーチャーの種類が少ない上に殆どの敵が頭を撃つだけで事足り攻略の幅は極端に狭いし、ハンドガンの弾は無限にあるのでサバイバルしてる雰囲気もまるでなく、面白味を見出せる要素は微塵もない。
明らかにこのパートは割り切ってる感があるが、それだけならまだしも、たまに出てくるカッパのような敵がアホみたいに硬くて倒すのに5分以上かかる鬱陶しさで実にイライラが募る。しかも、こいつが3回連続で出て来る時もあるのだから、もう溜息が止まらない。面白くもないのに手間だけはかかるこのパートは本当に嫌気がさしてくる。
映像もわりかし酷く、高校生の年齢であるはずの少女は明らかに熟女にしか見えない老けっぷりだし、演出のシーンでは不自然な動きだらけで興醒め。ロードの数も多くゲームに入り込むことを阻害してくる。

率直に言ってこのゲームはどうしようもなく、オマケにプレイヤーへの配慮も最悪で、駄作も良いところなのだが、それでも最後までプレイ出来たのはストーリーに訴求力があるから。
まず単純に、ノベルではないアドベンチャーゲームで、推理もののミステリーを体験出来るというのが面白い。序盤のもっさりさえ抜ければ次々と事件が起こって気を引いてくれるし、思わせぶりな演出で誰もが怪しい雰囲気を醸し出していて誰が犯人なのか気になる作り。
物語はかなり細かい所まで計算されており、後々振り返ればそういう事だったのかと合点する場面がいくつもあり、かなり作り込まれている事が分かる。主人公のキャラも良く、過去の出来事がトラウマになりもう一人の自分を作る事で自我を保ってきた彼が、依存していたもう一人の自分から抜け出して、本当の自分として大事な選択をする場面は中々燃えてくるものがあった。ゲームで良くある謎の神聖な空間が、重要な伏線として機能しているのもポイント高い。
ただ、話の筋はとても良く出来てるんだけど、動機の部分があまり腑に落ちないから、物語に深みはないかな。劇中で主人公が「犯人の中には、理屈では通じない相手がいる」と暗に仄めかしていたから、多分狙っての事だろうけど。
このストーリーだけでゲームを進めるうえでのモチベーションの9割9分を占めていると言っても過言ではないのだが、他の部分が酷すぎるので相対的にストーリーが良く見えているというのは多分にあり、衝撃を覚えるほどの特別なものはない。制約の強いゲームのストーリーにしては面白いという程度。
ただ、田舎町の殺人事件という題材はゲームではあまりない設定だから、そこにピンと来た人にはオススメかな。