ステルスが楽しいステルスゲーム






PS3とXbox360のステルスアクションゲーム。開発はIOインタラクティブ。

いやはや、とても面白かった。実にステルスプレイを楽しませてくれるステルスゲームだった。ステルスプレイが自己満足の域から出ないステルスゲームは多くこれもその部類に入るが、ヒットマンはあらゆる面においてステルスを楽しませる為の仕掛けが組み込まれており、ステルスをしたい気分にさせてくれる。

ゲームのスタイルとしては敵の目を掻い潜りながらゴールに向かって一直線に突き進むというメタルギアのような形ではなく、小さな箱庭の中をウロウロしながらゴールへの道筋を探していくという感じ。箱庭と言っても広さという点では大したことはないが、その分尋常ではない密度を誇っている。
映像のクオリティや物量が凄まじいのは海外制作のゲームではいつもの事だが、何よりも仕掛けの細かさが凄い。一つのマップに5つくらい目標達成までのアプローチが詰め込まれている。目的地への侵入やターゲットの暗殺などの決められた目標に至るまでの道筋がいくつも用意されているわけだ。それは自由度の高いゲームにありがちなプレイヤーの発想次第という投げやりな道筋ではなく、開発側が明確な意図を込めて目標達成までのプロセスを築くパーツをマップに散りばめている事が分かる。
つまりこのゲームの自由度はあくまでスタッフの手のひらの範囲内にあり、ごり押しを除けば大方スタッフが意図した通りに進むようになっている。プレイヤーの発想に応えてくれるだけの懐の広さはない。装備だって決められたものしか持ち込めない。しかしパズルのようにパーツが綺麗にハマって目標が達成される快感がこのゲームにはある。
しかもそのパーツはプレイヤーにあざとく示されるわけではなく、ターゲットの動きを観察したり人々の会話に耳を澄ましたり(吹き替えGJ)マップを細かに探索したりすることで初めて気付くように巧妙に仕掛けられている。だからやらされている感が一切なく自分で解いている感覚があるわけだ。
やらされている感がないのに詰将棋のような面白さがあるという驚異的な事をこのゲームはやってのけている。この巧妙な作り込みには驚愕してしまった。

では解法を探すだけのゲームなのかと言うと違う。ここにステルスの要素が関わってくる。
このゲームの大きな特徴は基本的に衆人環視の状態であることが挙げられる。こんなの隠れられる余地ないだろと思いたくなるほど凄まじい監視の目があるのだが、では衆人環視の中でどうやって警戒エリアに侵入すれば良いのかと言うと、ごり押しや物陰に隠れながらと言うのも一応可能ではあるが基本的には変装を利用する必要がある。変装の職種に応じて警戒エリアでも侵入可能となる。
だが変装しても同じ職種の人には見破られる危険性があるので油断出来ない。そもそも衆人環視の中から服装を奪うために一人こっそりと始末するだけでも大変。かなりシビアではあるが、安易に変装出来て変装すればそれで安心という優しさがないおかげでステルスゲームとしての面白さは増している。
一方で、監視の前で警戒エリアへの侵入や犯罪行為さえしなければ見咎められる事はないため、ある程度は自由に調査出来る。
肝心な場面では一瞬も気を抜けないが、それ以外では隠れている必要がなく落ち着いて考える事が出来るこのメリハリは上手い。

マップは20用意されており、最後らへんは力尽きたのかレベルデザインが適当だった気がするが、それまでは徹底した作り込みでプレイヤーの度肝を抜いてくれる。とにかく仕掛けの細かさが異常。ステージ毎に明示された条件を達成するとチェックされるチャレンジリストが用意されているのも良い。豊富なアプローチがあるゲーム性と相まって何度でもやり直したくなる。

欠点はうんそうだね、フリーズとデータ破損バグがあることだね。フリーズ生産機であるフォールアウト3ですらデータ破損はなかったのに(その代わりPS3が壊れるというデータ破損よりファックなことが起こったが)、まさかそんな致命的な爆弾が仕込まれているとはね。データ破損なんて一番あってはならないことだよね。ゲームとしては素晴らしいが商品としての価値はないね。
ゲームの中で気になることは何処が警戒エリアなのかパッと見て分からないこと。間違えて入ってしまっても一瞬であれば注意で済むが、スコアが下がってしまうので納得がいかない。

とにかくこのゲームには様々な仕掛けが施されており、ごり押しではなくその仕掛けを利用して進めたい気分にさせてくれる。その仕掛けを利用するには必然的にステルスプレイを求められる。と言う、プレイヤー自らステルスプレイがしたくなる理想的なステルスゲームに仕上がっていた。
海外のゲームは自由度を盾にゲームバランスやレベルデザインの調整を放棄したものが多い印象だったが、ヒットマンは逆に調整によって自由度を生み出すというとてつもないことをやってのけている。これには舌を巻いた。
ステルスゲームが好きならば絶対に買うべき作品。と言いたいところだが、致命的なバグがあるのでそれが直ってからで良いと思う。