ウニ殺人事件





兵士の為にパイを作っていたら、いつのまにか3日が過ぎていた。

返せ、私の72時間。

そう言っても失われた時間は戻ってこないので、仕方なく私はパイを渡す為に兵士がいるモヨリの森へと行くことにした。そうして、森に着いた頃には今度は2日が過ぎ去っていた。

返せ、私の48時間。

そうなの、この世界は異常に時が流れるのが早いの。ちょっと遠出をしたり錬金するだけで何日も溶けて消え去っていくの。
私の名前はメルルリンス・レーデ・アールズ。このアールズ王国のお姫様。そう言ってる間にまた一日が過ぎて行く。

ルーフェスが私のこと心配して護衛を付けてくれた。
彼の名前はライアス君と言って、仲間にした際に、「べ、別にお前の為に付いて行くんじゃないんだからな!」と男のくせに恥ずかしげもなくツンデレ台詞を吐いて、少し私をイラっとさせた幼馴染。ツンデレ台詞は私のような毒のある女が使うから活きるのよ。

今日も私はアトリエで釜の中をぐーるぐる。うふ、釜の中を混ぜ混ぜしてる私ったらとっても可愛い。
私の錬金術としての腕は日に日に高まり、今では色々な物を調合出来るようになった。
回復薬として使えるヒーリングサルヴは当然として、敵に大ダメージを与えるクラフト、あらゆる素材の繋ぎ薬として使える中和剤など、私の進化はとどまる所を知らない。
でも、錬金ばかりしてるわけにもいかない。私にはパパとの約束があるのだ。百人しか住んでいないこの田舎町を三年で三万人が住む大都市にするという、無茶ぶりな約束が・・・
まず、私が始めたのは王国の周りに広がっている森を開拓することだった。百人しか住んでいないこの国のキャパには限界があり、未開拓土地を開かない限りとても三万人もの人が住める場所はないからだ。
当然、開拓するにはそこに住むモンスターが邪魔となるから、この子達を駆除する必要があるのだけど、ほら私ってばとてもか弱い乙女でしょ?だから暴力は嫌いなの。
前回ウサギを原型とどめ無いくらいボコボコにしたことで私の中の何かが覚醒した気もするけど、その何かは二日としないうちに萎んでしまって、私はまたいつものように動物をこよなく愛する、メロメロキュートに可愛いメルルちゃんへと戻ったの。
だから、モンスターに襲われたら、そこの下僕二人・・・ライアス君とケイナに任せて、私はヒーリングサルヴでサポートに回っている。アトリエでは釜の中をぐーるぐる、外では傷口に塗り塗り塗り。

先日、開拓の目下の目標であるハンニバル森の中に生息するうさぎを駆除しろとの通達があった。
この国に生息するうさぎは、寂しくなると死んでしまうとか言うキュートな都市伝説などとはおよそ無縁で、人間を見つけると積極的に襲いかかってくる危険な小動物なんだ。あの特徴的な耳とうさぎのステータスとも言える人参さえ常備してなければ、誰もあいつらのことをうさぎだなんて連想出来ないほど凶暴なの。
私はアトリエでたっぷりヒーリングサルヴを調合して、準備を整える。一つ作るたびに私の一日は消えていく。一体今まで何個作ってきたことだろう。私の青春の日々はどれだけ消えてなくなったのだろう。でも、私がこの道を選んだんだから仕方ないよね・・・
さぁ、ケイナ、ライアス君、行くわよ!

ハンニバル森は、昔パパと一緒に遊びに来たことがあって、木々の木漏れ日が幻想的な雰囲気を醸し出す風光明媚な場所で、とっても癒されるんだよ!
でも、今は状況が少し変わっていて、所々に小屋が建てられている。どうやらもう開拓が進められているようだ。パパったら気が早いんだから。

「おう、メルルちゃん!とっととウサギ共をどうにかしてくれや。全然作業が捗らねぇよ。」

と言ってくるのは、この国の貴重な労働者のうちの一人で、ここの開拓を任されたのであろう名も知らぬおじさんA。視姦しないで下さい。
ウサギに襲われたのか所々打撲の跡がある。ウサギの特徴的な攻撃方法の一つが、何処で手に入れたのか分からない人参を振り回してくることで、これがまたお前はジェダイの戦士かと突っ込みたくなるほど器用に振り回してくるもんだから、とっても厄介なの。
もう一つ、ウサギの習性で特徴的なのが、集団で行動していること。だいたいウサギを一匹見つけたら、その近くに他五匹はいると思った方が良いわ。

「うわ!おっさん。その小さなボコボコは何?」

ライアス君が目ざとく、変わった傷跡を見つける。おじさんの腕にハンコ注射の跡のような小さく腫れた傷がたくさんあって、それがボコボコと凹とつを作っている。針か何かで刺されたのだろうか。

「あぁ、この前、ウサギに囲まれて集団リンチに会った時に貰った傷でよぉ。あん時は逃げるのに必死で良く分からなかったけど、改めて考えると不思議な傷だよなぁ。」

ウサギは噛むか体当たりか人参を振り回すしか脳がないはずで、その傷跡に少し違和感を覚えるのだけど、考えるのが苦手な私の思考時間は10秒と持たない。まぁ良いや、どうせ前線に出るのはライアス君とケイナだし。

一つ目の集団は泉の畔で見つけた。囲まれさえしなければほぼ捉えたも同然。
ケイナがまず眠り薬でウサギ共を牽制、フラフラになったところをライアス君が斬殺。ウサギは必死になって人参で斬撃を受け止めようとするも人参は輪切りになるだけ。私は暇なのでその輪切りになった人参を集めて今夜のシチューの具材とする。
二つ目の集団は森の中にいて、一匹は目立つところにいたのですぐ見つかったのだけど、残りの仲間が見当たらない。マズイ、と思った時にはもう手遅れで、木々に隠れていたウサギ達が私たちを囲むようにして姿を現す。
もしかして私たち大ピンチ!?と思わせといて、実はこれも作戦の範疇で、ウサギ達は私が地面に埋めたウニ型地雷「クラフト」の餌食となっている。ついでに木々も伐採出来て一石二鳥。

「ねぇ、メルル?さっきウニを持ったウサギさんがいませんでしたか?」

と、今日ケイナが発した第一声があまりに素っ頓狂な事で私は驚くと同時に、何を馬鹿な事を言ってるんだと思い無視するのだけど、
森を出た私の視界に入ってきたのは、全身穴だらけになって血を流し倒れている名も知らぬおじさんAと、あたり一面に散らばっているウニだった。

つづ・・・くか分かりません。