映画的なゲームの究極の形







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PS3とXbox360で出てるホラーアドベンチャーゲーム。開発はViscal games。

このシリーズ、とにかくグロい表現が多いことで有名で、日本での発売を自粛したほどである。
そういうスプラッターゲー(映画も)にありがちなこととして、ただグロいだけで本質的な怖さは全くなく、グロと怖さをごっちゃにしている点が目立つので、どうせこれもグロいだけのスプラッターゲーなんだろうなぁと思いながら始めたのだが、
あれ・・・ちょっと待って。え、何これめちゃくちゃ怖いんですけど・・・

うん、目新しい要素自体は何もないんだよ。
クリーチャーはバイオとかに出て来そうな見た目がキモい奴でデザイン的に目を引く部分はないし、人間が怪物化して狂信者の思想に巻き込まれていくシナリオもありがちで、システムに至ってはバイオ4のビハインドカメラを採用して、あとはテレキネシスやステイシス(バレットタイム)と言った既存の物を組み合わせだけの特に新鮮味がない普通のTPS。
しかし、怖い。このゲームは本当に怖い。その理由の一つに映画的な作りが上げられる。

まず、このゲームの画面にはゲージやマップと言ったゲーム的な表示(HUD)が一切存在しない。
HUDが表示されていると、どうしても目がそっちに行きがちだし、せっかくの演出も、HUDが目に入るとどこか興ざめしてしまうのだが、それが表示されないことで、プレイヤーに、これはゲームの世界であると思わせない働きがあるわけだ。これだけで臨場感や没入度が全然違う。
しかもHUDがないことによる不便さが一切無い。これが凄い。マップ表示がないことに関しては目標地点まで光のラインを点滅させるオブジェクトマーカーで補助し、手持ちの武器や残弾数はホログラムで表示と、ゲーム的な表示を使わず、かつ世界観に違和感が生じないよう、実に自然に情報を取り入れている。

次に、このゲームはロードや暗転も一切ない。
いや、正確に言うとロードは存在するが、エレベーターのドアやシャッターが開くまでの僅かな間に処理し、プレイヤーにロードを感じさせないという驚異的なことをやってのけている。ムービーに関しても、もはや海外のゲームでは当たり前となっているが、当然の如くシームレスにプレイアブルへと繋がるので境目は全くなし。
最後まで途切れることなくゲームは続き、ゲームから乖離する瞬間がまるでない。このように徹底して映画のような臨場感ある作りを意識しているのが分かる。
要するに海外のパニックホラー映画をそのままゲームにした感じなのだが、魅せることを意識した映像と主人公と一体になれるゲームならではの特性によって、本当に自分が映画の中に入り込んだかのような感覚を受ける。この一体感は凄い。

演出も素晴らしい。
この場所は安全だろうと言える聖域が存在せず、セーブポイントやストアがある部屋でも容赦なくモンスターが現れ、果てはアイテム部屋のようなボーナスフロアでさえ通気口を蹴破ってやって来るので、常にプレイヤーは緊張感に包まれる。
かと思えば、如何にも何か出て来そうだぞ、という場所では何も起きず、良い意味でお約束を裏切って焦らし、極限まで不安を煽ってくる。目に見えない怖さが一番堪えることをスタッフは良く心得ている。同時に全く展開が予測出来ないため、常に意表を突かれてビビってしまう。
しかもその流れが、最後の最後まで一瞬の緩みもなく、プレイヤーを付き纏ってくるのだから堪らない。ただそこにいること、ただそこを歩くことすら拒絶したくなるような込み上げる恐怖を常に感じさせられる。この卓越した演出に、上に書いたようなプレイヤーを画面に没頭させる映像が組み合わさっているのだから、これで怖くないわけがない。

ウリである残虐表現も限界点を振り切っており、頭のない人間の死体はそこら中に転がっているし、四肢は容赦なく千切られるし、頭の皮は剥がされるし、挙句、目を針で突き刺す動作をプレイヤーに求めてくるなど、もうとにかくグロい。笑っちゃうほどグロい。スタッフの頭大丈夫かと思うほどグロい。

怖いだけでなく、ゲームとしても抜群に面白い。システム自体は普通の三人称視点のシューティングだが、普通じゃないのがモンスターの部位欠損。
四肢や頭が欠けている死体が多く転がっているこのゲームだが、それはモンスターも例外ではない。部位を狙い撃てば、その部分がちゃんと吹っ飛ぶ。頭と脚を失いながら、這って追ってくるモンスターがキモコワイ。
この部位破壊を生かした戦闘が戦略的でとても面白い。例えば、腕を吹き飛ばすと攻撃力が弱まり、脚を破壊すれば動きが遅くなり、逆に頭が弾け飛ぶとより凶暴になったりする。モンスターの種類ごとにそれぞれ特性があり、それに合わせ考えて部位を破壊していく必要がある。
この部位破壊とマッチしているのがステイシスと呼ばれる敵の動きを緩慢にする能力。動きを止めれば反撃を喰らうことなく、じっくりと部位を狙い撃てるが、ステイシスの使用回数は制限されているので、やりくりに頭を悩ませられる。
そして、もう一つの能力であるテレキネシス。これは物体を念力で持ち上げて、構えた方向に投げ飛ばす能力で、使用用途が幅広く、色々な使い道を発見していくのが何とも楽しい。モンスターの腕を吹き飛ばしてその腕をテレキネシスで射出したり、死体を当てて怯ませたり、モンスターの硫酸ビームをキャッチしてお返ししたりと、プレイヤーのイマジネーション次第でいくらでも有利な状況を作り出せる。
これらの仕組みのおかげで戦闘をシューティングの枠だけに収まらせていないし、工夫次第では弾の節約にもなるのでサバイバルゲームとして実にマッチしたシステムだと思う。
一度倒した敵を踏みつけないとアイテムが出ないという仕組みも中々愉快で、散々怖がらせてくれたモンスターをグチャグチャと踏みつけるのは爽快。倒れたように見えて死んだふりをしてる場合もあり、うわ、もう起き上がってくんなこんにゃろ、と踏みつけまくってる様子が良い感じにパニック感を演出している。

唯一残念なのは、亡霊が出てくるのだが、そいつがやたらとお喋りなこと。これは完全に雰囲気をぶち壊している。
英語だから何を言ってるか分からないのでまだ良かったが、後で翻訳を調べたら、色々と恥ずかしいことを喋っていて、シュールな現れ方といい、終盤からは完全にネタキャラと化していた。

クリアーまでは大体15時間ぐらい。日数にして半月も費やした。
とにかく内容が濃く、一日一時間が限界だった。これ以上は精神が保たない。本気で怖かった。ホラーが苦手な俺がやって良いゲームじゃなかった。ゲームとしてはとても面白いのに、怖いから二週目がやれないという状態。

ハードの性能が上がるにつれ、映像表現は向上し、魅せることを主眼においたゲームが増えた。時に映画的だと皮肉の意味で揶揄されることもあったが、viscal gamesは、その戯言を打ち負かすほどの映画的なゲームを作り上げてみせた。
販売は海外版のみと中々ハードルは高いが、ホラーとしてもゲームとしても超一流の出来なので、ホラーゲーム好きな人は是非一度体験して貰いたい。