面白いけど、物足りない




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PS3・Xbox360のTPSシューター。開発はプラチナゲームズ。

シューターなら当たり前となっているオンライン要素をあえて組み込まず、純粋にソロプレイに特化しているだけあってゲーム性は濃い。
ゲームのデザイン自体は、至って普通のTPSシューティングに、ブーストとバレットタイム(ARモード)を搭載しているだけ。この2つが、ヴァンキッシュのアイデンティティーと言って良い。
ブーストはその名の通り、高速で移動、前線への切り込みなどに役立つ。これだけだと極めて照準が合わせづらいので、周りをスローモーションにするARモードが搭載されている。これを使うことで、じっくりと狙いを定められるわけだ。
ブーストのスピード感、ARモードとの緩急は、想像以上に面白く、キャラを動かしているだけで楽しいし、自分の工夫次第でカッコ良くプレイできる。
特に、柵を乗り超え→キャラが浮いてる間にARを発動→高い地点から敵を狙い撃ちという流れは、あまりのカッコ良さに惚れ惚れとしてしまう。
敵がロボットというのも気兼ねなく攻撃出来て良い。ボンボンボンボンと、盛大に爆発してくれて爽快。

話は変わるが、このゲームのディレクターは三上真司という人で、バイオやGod Handの生みの親だ。この人のゲームの特色は、練りに練られたゲームデザイン。

例えば、バイオハザード4。
バイオ4は、TPSシューターながら、動きながら銃を撃つことができない。これはシューティングゲームでは珍しい仕様だが、ちゃんと意味がある。
敵を排除するには、その敵とじっくり向き合わなければならないというのを意図しており、これは実にホラー的な要素だ。その敵が、じわりじわりと寄ってくるゾンビ(厳密には違うが)なのが、またピッタリとハマっている。
しかし、これではもどかしいだけのシューティングゲームになるのが目に見えている。そこで、組み込まれたのがベリィ・トゥ・ベリィ。敵の頭や足などを撃って怯ませることで、体術をかましてダメージを与えるシステムだが、部位を狙い撃つということで、じっくりと敵を注目するバイオ4のシステムと恐ろしいほどハマっていたわけだ。
同時に、弾の温存にも繋がり、バイオのサバイバル性を引き立てる効果も生み出している。
恐怖と向き合わせるTPSシステム、バイオのゾンビ、、ベリィ・トゥ・ベリィ、そしてサバイバル性。
ゲーム性を180度変えながら、バイオの魅力を余すところなく引き出し、システムの数々がガッチリと組み合わさって出来た奇跡の作品、それがバイオハザード4だ。

例えばゴッドハンド。
ニッチなゲームなので、知らない人もいるかもしれないが、簡単に言うと3D版ファイナルファイト。3D空間に配置されているモヒカン野郎をぶっ飛ばしていくゲーム。
モヒカン野郎は、タイマンなら簡単に倒せるが、1対複数になると途端に難しくなる。スタッフもそれは心得ているので、タイマンにならないように敵を配置している。ように見えて、実は工夫すればタイマンに持ち込める配置の妙。
そして、力を解放すれば複数に囲まれても無双できる。普段はタイマンで戦うように注意を払ってゲージを溜め、力を解放して一気に無双。このメリハリが最高に気持ち良い。

これで分かってもらえたと思うが、要するに三上氏のゲームは、計算のうえに成り立っている。

今回のVANQUISHも例外ではない。
基本的に、カバーで撃っているだけでも何とかなるが、ちょっと強い雑魚が出てくると、そうもいかない。
奴らは積極的にプレイヤーへと向かってくるので、ブーストを使って突撃した方が楽に倒せる。
しかし、そうすると障害物からチクチク撃ってくる雑魚が邪魔になってくる。この配置が嫌らしくて絶妙。単調なプレイにさせず、常に考える必要性を与えてくれる。シューティングゲームは基本的に同じことの繰り返しなので、これは非常に重要なことだ。さすが三上氏と言えるバランス取り。
とはいえ、ちょっと敵の種類が少ないなと思う。中盤までに、敵のほとんどが出尽くしている。組み合わせの妙があると言っても、数が少なければ攻略のパターンも決まってくる。
ボスも使い回しがほとんどで、「またかよ…」という気分になる。中盤からは、驚きがほとんどなかった。

さらに疑問なのが武器の仕様。銃にセットされてる弾がフルの状態で、その銃を新たに拾えばランクが上がるというシステムなのだが、これがしっくりこない。
要するに、ランクを上げるには「使わず、長く持つ」ということがベストで、これのせいで、気軽に武器を使うことが躊躇われるし、色々な武器を試そうという気になれない。このシステムは、三上氏らしくない。


ちなみに俺自身は、難易度ノーマルとハードをクリアー。God Hardに挑戦してチャプター4まで進めたが、どう考えても人間が反応できる範疇を超えていて、400回は死んだ。ゴッドハンドのハードも異常な難易度だったが、本作はそれ以上。
スコアボードを見た限りでは、現時点でクリアーしてる人は、ほんの数人しかいない。オンラインに繋いでいない人も含めれば、実際はもう少しいると思うが、God Hardの凄まじさを物語るには充分だ。
ただ、God Hardは基本的にカバーでチマチマ進まないとまず死ぬため、VANQUISHの醍醐味であるスピード感あるバトルができないから、あんまり楽しくないんだよな。

ボリュームは初見ならストーリーを含めて7時間程度。決して長いとは言えないが、アクションはこれぐらいが丁度良い。
ゲームの本質から外れた要素はほとんどないし、単純に動かしてるだけで楽しいので、リプレイ性は高い。
同じプラチナゲームが作ったベヨネッタは、やり込み要素は豊富だったが、スペースハリアー風のステージやアフターバーター風のステージなど、ゲームの本質から離れた要素が、つまらない上に長く、オマケに難易度が上がるに連れて難しくなったりと、ベヨネッタ自体は最高に面白いゲームなのに、これらの要素のせいで何周もやろうという気になれなかった。何でも詰め込みたいというスタッフの気持ちは分かるが、冗長過ぎるのも考えものだ。

一方ヴァンキッシュの場合、ハードやGod Hardをクリアーしても何も特典がないのは少し寂しい。この情報を聞いて、God Hardクリアーを断念してしまった。せめてトロフィーぐらい用意してよ。

ランダム性を徹底的に排除し、純粋にプレイヤースキルを問われるタクティカルチャレンジは非常に楽しい。
練りに練られた敵の配置・組み合わせで、難易度が高く、やり応えがある。ヴァンキッシュのエッセンスが詰め込まれたモードと言える。
これに関しては、全てクリアーすればトロフィーが手に入る。

あと、ストーリーはオマケレベルで、本当に無難な出来。キャラも展開も設定も、ありがちなパターンで見るべきところは何もなかった。

TPSやFPSといった銃を基軸としたものは、似たようなゲーム性が多く、発展性がないジャンルだと思っていたが、VANQUISHは、さすが三上氏と言えるアイディアに溢れた作品だった。
ただ、リプレイ性が高いとはいえ、ボリュームが少ないので、これで8000円は高いというのが正直な感想。
タクティカルチャレンジを30個ぐらい用意してくれたら良かったな。