もはや芸術の域




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「街」という作品をご存知だろうか。数あるサウンドノベルの中でも、一線を画した作りで有名なゲームだった。
その特徴とは、複数の主人公が存在し、それぞれのシナリオをザッピングしながら読み進めていくところで、
それだけなら普通の読むだけのサウンドノベルと何ら変わりはないが、この作品が特殊なのは、それぞれの主人公のシナリオが複雑に絡みあって構成されているところだ。

簡単にシステムを説明すると、ある主人公で選んだ選択肢により、違う主人公の運命が変わってしまい、正しい選択肢を解き進めていかないと先のチャプターに進めない。
例えば、主人公Aパートをプレイ中に、信号を無視するかしないかの選択肢で「無視する」を選択したとする。すると、主人公Bが乗った車がAを引きそうになり、BはAを注意する。
しかし、このちょっとしたタイムロスで、Bは出合うはずだった人物と出会えなくなり、主人公Bパートをプレイした時、ゲームオーバーになってしまう。こうなったら、主人公Aのパートをやり直し、選択肢で「信号を無視しない」を選ぶことによって、Bは無事にある人物と対面し、物語は進んでいく。
とてつもなく複雑怪奇で、作るのが大変そうな形式だが、何気ないことの連続が主人公の運命を大きく変え、最終的に大団円に繋がっていくのだ。
現実の世界でも「あの時ああしておけば良かった」と思うことは多いだろう。この作品は、そんな人生そのものを体現しているとも云える。

街を初めてプレイした時、サウンドノベルとゲーム性の絶妙過ぎる組み合わせに唸りにうなった。続編も予定されており楽しみにしていたのだが、売り上げが伸びず、結局頓挫してしまった。
そして街が発売されてから10年。ついに発売されたのが、この428。スタッフは一新されていたが、「街」の系譜を受け継いでおり、紛れもなく夢にまでみた続編だった。街ファンの俺にとって、428は当然マストバイ。
しかし、俺の前に対応ハードの壁が立ちはだかった。当時の俺はwiiを持っていなかったのである。そもそも受験生だったので時間も金もなく、指をくわえて見逃すほかなかった。
それから大学生になり、wiiも購入したが、他のゲームにハマっていたこともあり、428を買うタイミングを逃し続けた。去年の秋口にPS3に発売されたところでそれを機に購入。

正直、街のイメージが鮮烈に残っていた俺は、428は期待外れに終わるだろうと思っていた。街のハードルは余りに高いし、スタッフも一新されている。
街は越えれずとも、そこそこの良作になっていればと、そう考えていた。
が、結論から云うと、428は俺の期待値をあっさり超えた。むしろ街を上回ったと云っても過言ではない。

ここから先はネタバレを含むので注意。
今作の主人公は以下の5人

遠藤亜智:熱血漢で、困った人を放っておけない性格の好青年。大沢ひとみとの出合いから、彼の運命は大きく変わる。

加納伸也:正義感は強いが、どこか頼りない新米刑事。ある事件の張り込みをしている。

大沢賢治:大手製薬会社の研究長であり、ウイルス研究の第一人者。
研究以外に全く感心を持たず、無味乾燥な日常を過ごしていたが、あるきっかけで上木彩矢のファンになる。

御法川実:フリーライターで、自分の書いた記事に絶対の自信を持っている。
態度は横柄だが、曲がったことは大嫌いで、義理堅い。自分の恩師の抱えた借金を返すために、奔走する。

タマ:ネコの着ぐるみを着た謎の人物。あるペンダントを買うために、着ぐるみのバイトをしていたが脱げなくなってしまい…

大沢ひとみ:可憐でおとなしい性格の少女。
ある人物から命を狙われている。

スタッフが海外ドラマの24を意識したと云っている通り、サスペンスで統一され10時~20時の一時間単位で物語は区切られている。
物語は非常にテンポ良く進み、アクシデントが次々と起こる。
展開が矢継ぎ早に変わるので、やめ時が見つからないし、良い場面で「keep out」になり、他の物語を進めていく必要があるのだが、どの話も面白いため、とにかくどんどん読み進めてしまう。
何気ない選択肢で、他の主人公の運命が変わるからダレることがないし、「そんなことでゲームオーバーかよ」と笑わせてくれるバットエンドを集めるのも楽しい。
そして街との最大の違いは、主人公達の繋がり。
街の場合、それぞれの主人公の繋がりが極めて間接的で、結末も街の中で起こった小さな事件で完結していた。
対して、428は終盤に近づくにつれ、それぞれの主人公の目的が一つに集結し、壮大な結末へと繋がっていく。
多様性という意味では、街に軍配が上がるが、個人的には428の方が好きだ。
街の、主人公通しの絡みの希薄さと、バラバラな完結が少し残念だった俺としては、428は長年のモヤモヤを払拭してくれた作品と云える。
しかし、残念だったのは最後の釈然としない終わり方。
捕まえたはずのテロリストは結局逃げてしまい、この先はアニメとして放映される「CANAN」へと続く。
428の物語は、アニメへと繋げるための壮大な前座だったという衝撃的な事実をプレイヤーは知ることになる。
このカナンのプレストーリーなるものをクリアー後に見ることが出来るのだが、これが凄い蛇足。
選択肢は一切なく、文字と音声の垂れ流しで、厨二病としか言い様がない文章が延々と流れる。
この物語を書いてる作者は奈須キノコという人で、この人の作品は読んだことがないのだが、どうやら簡単に説明出来ることをグネグネと長ったらしく書くのが特徴らしく、見てて非常にイライラした。
このカナンというアニメがなければ、綺麗な終わり方になったかも知れないと思うと、少し腹立たしい。
しかし、428の出来自体が損なわれるものでもないし、カナンのプレストーリーは見なくても支障はないので(トロフィーに支障はあるが)、致命的な欠点ではない。
サウンドノベルが好きな人なら、絶対プレイするべき作品だと思う。